第18話 Operation Chavín de Huántar
明神学院が標的になったのは、アメリカ人の生徒が沢山居るからだ。
『―――我々は、米帝国主義並びに日帝本国人に
冷戦期の極左によるテロリズムを知らない生徒達は、何を言っているのか分からない。
「(おい、あいつら、病気なんじゃないか?)」
「(病人でも健常者にせよ、やばい奴らだな?)」
「(話の1mmも理解出来ん。それより腹が減った)」
人質にも関わらず、恐怖心がそれほどないのは、テロリストに興味が無いのだろう。
日本でテロが頻発していたのは、1970年代。
一方、生徒達は2000年代生まれ。
親、又は祖父の世代の出来事に興味を持て、というのは酷な話だろう。
逆に拘束されているアメリカ人は、危機感を露わにしている。
ダクトテープで手足を塞がれたシャロンは、考えていた。
(父と煉が同一人物……?)
DNA鑑定がそのように示している。
しかし、意味が分からない。
父は去年、東欧で戦死した筈だ。
死体は無い為、正確には行方不明扱いになっているが、法的には死亡宣告されている。
百歩譲って生存していたとしても、老兵が10代になる事など考えられない。
そもそも、人種が違うのだ。
これ以上の理由は無いだろう。
(……日本人は、黄色人種なんだけど? 白人が黄色人種になる事なんてあるの?)
記憶転移で白人がアフリカ人になったり、
無論、シャロンの知らないだけで、症例があるのかもしれないが。
やはり、年齢の矛盾は説明がつかない。
(……若しかして? 前世の記憶的な?)
俄かに信じ難い話だが、前世の記憶を持ったまま生きている人間は、存在する。
―――
『【戦死した操縦士の夢を見続けた男の子】
ある男児は2歳頃から、夜中に突然、戦闘機が撃ち落とされる悪夢に悩まされるようになった。
母親が訊くと、
「日本人が飛行機を撃って墜落した」
のだと言う。
そして彼は、
・WWII
・太平洋戦争で戦死した記憶
・操縦士の戦友
等を詳細に語り始め、母親が幾つかの戦争が記載された本を見せると、日本の硫黄島を指差し、そこで墜落したという。
その後の調査で、アメリカ人操縦士が硫黄島で戦時中に墜落で戦死していたという事が判明。
カウンセラーを受診した所、これは輪廻転生で過去の記憶が存在するに違いないという回答を得た。
両親は最初、とても信じられなかったが、息子のあまりにも鮮明な記憶から信じる様になっていったとあるいう。
後に戦死した兵士の姉にも面会したが、彼女も男児が家族でしか知り得ない話を語った事から、弟の生まれ変わりに違いないと信じているとの事である。
悪夢は徐々に見る回数が減っていき、最終的に8歳になるまで続いた。
だが、男児の記憶は年を取るにつれ次第に薄れつつあり、今では殆ど覚えていないという』(*1)(*2)
『【前世で殺された記憶を語る3歳児】
ゴラン高原(シリアやイスラエルの国境が接する高原)に住む3歳の男児が自分の前世で殺された事を語り、尚且つその犯人を知っていると主張した。
男児は少数民族の一員で、彼らは霊魂転生を信じており、生まれつきの
その男児は頭部に一筋の長く、赤い
彼が3歳で言葉を話せる様になった時、自分は斧で頭を切りつけられて殺されたと親に語り、村の人々もこの話を深刻に受け止めた。
村のしきたりでは、前世を思い出した子供は3歳になると以前住んでいた家へ連れて行く事になっているのだが、この男児も前世で住んでいた村に連れて行かれた所、自分の過去の名前を思い出したという。
そして皆に自分を前世で殺した男を教え、更にはその凶器の斧まで見付けてしまったのだ。
加えて、犯人の名前まで記憶していた為、皆でその男を詰問した所、男は真っ青になったという。
最後に、その男の子は前世の自分が白骨化して放置されていた場所まで皆を誘導。
そこにあった遺体は確かに頭部に傷を負っていて、その箇所はその男児にある痣と一致したという』(*2)(*3)
―――
前者は、日本のテレビ番組でも紹介された為、日本人にも知られているだろう。
後者は、どちらかというと心霊的な話に分類されるかもしれない。
(戦死した父の霊魂が、煉の体に憑依して、同一人物になった……?)
あまりにも突拍子も無い話だが、世の中には解明されていない事が沢山ある。
自分でも無理な話だとは思うが、現状それしか思い付かない。
(……気付いていたのかな?)
言動を思い出す限り、自分が娘だと察している可能性が高い。
嬉しさと恥ずかしさ、そして、今まで騙されていた怒りが込み上げてくる。
(……私はどうしたいんだろう?)
体育座りで、膝の間に頭を突っ込むシャロンであった。
司も人質になっていた。
しかし、恐怖心は無い。
不思議と楽観視していた。
(……たっ君が守護神だからね)
生徒手帳に貼ってある想い人の写真をなぞる。
写真を触れる度、見る度に落ち着く。
合法的な精神安定剤だ。
(そういえば保健室に行ったきり、帰ってこないな? 大丈夫かな?)
テロリストが侵入して来た時、何人かの生徒や教職員は便所に行っていた。
1千人以上も居るのだから、少なからず、同じ
テロリストの犯行声明は、続いている。
『―――我々の要求は、以下の通りである。
一つ、与党は改憲案を放棄し、未来永劫、現行憲法を遵守する事。
一つ、在日米軍は、撤退する事。
一つ、民主主義を放棄する事。
これらを守らなければ、人質は、解放しない』
どれも実行がほぼ不可能な無理難題だ。
これほど彼らが強気なのは、アメリカ人の中に駐日大使館関係者や米兵の子供が居るからだ。
イワンは人質の名簿を見ていた。
(1番高位なのは、参事官か……大使、公使
職員を脅して短時間で作らせた為、正確性は二の次だが。
生徒の親の職業がある程度掴めれば良い。
(軍人は……大尉か。もう少し上が欲しかったな―――ん?)
ある名前が目に付く。
―――
『生徒 :母親 :職業
北大路司:北大路皐月:医者
北大路煉:北大路皐月:医者』
―――
(……この漢字は、確か)
スマートフォンで調べる。
すると、すぐヒットした。
―――
『【北大路皐月】
・東京都医師会会員
・北大路総合病院院長
[資格]
・日本外科学会(外科医専門医)
[履歴]
・帝都大学医学部 卒
・医学博士』
―――
「同志よ、この者は何だ?」
「はい。この地域一帯に大きな影響力を持つ医者です。軍医でもありまして、日帝
本国人の手先です」
「よし、では、この者の子供も拘束だな」
「は」
あっという間に司も拘束された。
司のスマートフォンは奪われ、それで煉の位置情報が探られる。
「……高等部の方だな」
「よし、探すぞ!」
「応!」
武装した3人は高等部の校舎に入り、位置情報を基に保健室へ。
中に入ると、直前まで誰かが居たのか、マテ茶のコップが残されていた。
その横には、スマートフォンが置かれていた・
「何だこれは?」
「休憩中だったとか?」
「寝台の方は……居ないぞ? 可笑しいな? トイレか?」
その刹那、扉が閉まられる。
「「「!」」」
3人は慌てて開こうとするも、動かない。
嫌な予感がした。
「ようこそ。老害共」
「「「!」」」
振り返ると、煉が座っていた。
非武装なのを良いことに3人は、襲い掛かる。
しかし、ソマリアやアフガニスタンで戦い抜いた歴戦の古強者に、素人が勝てる訳が無い。
素早く取り出したベレッタを発砲。
3人の内、2人は額を撃ち抜かれ、残り1人は頭蓋骨が砕けるほどのアッパーを食らう。
「ぐえ……」
生存者が苦しむ間、2体の死体にはナタリーが薬品をかけ、徐々に溶かしていく。
人間が焼ける臭いが立ち込める。
《硫酸風呂の殺人者》の異名を持つイギリスの連続殺人犯、ジョン・ヘイグ(1909~1949)は、
『犯罪構成要件(原義の直訳では、死体)が無ければ罪に問われない』
という法律の条文を活かし、死体を硫酸で溶かし、完全犯罪を目論んだ(*4)。
実際には殺人の場合、一般的に犯罪構成要件は「人を殺した事実」であり、死体が発見されなくともその他の証拠等から人を殺したことが証明出来れば、裁判で有罪になる事もあるのだが。
ヘイグの目論見通り、警察の捜査は当初、難航を極めた(*4)。
が、庭から遺留物が発見し、それが証拠と認定され、彼は死刑となった(*4)。
ナタリーが、薬品で溶かすのはその為だ。
無論、ヘイグのような愚は犯さないが。
生存者のスマートフォンを奪い、テロリストの構成員を把握する。
「……30人か。ナタリー、公安に送ってくれ」
『了解』
証拠隠滅後、ナタリーは煉から受け取り、その複写を公安警察に送信する。
3人倒した所で、残り27人。
その間、煉はニコライとロビンソンにも同様に報告する。
『テロが起きた。
大至急、学校まで来てくれ』
と。
「……」
助けてくれ、と生存者は視線で乞う。
が、煉にその気は更々無い。
AK-47の銃床で撲殺する。
何度も何度も何度も殴り、顔が変形し、肉片が飛び散っても尚、止めない。
1回目で即死したにも関わらず、行うのは、それほど煉がテロリストを憎んでいる証拠だろう。
10回目くらいで
AK-47はぶっ壊れてしまったが、まだ2丁ある。
顔中を返り血で染めつつ、煉は尋ねた。
「ナタリー、使えるか?」
『勿論』
情報将校だが、銃器の使用はナタリーも出来なくはない。
「じゃあ、頼んだ」
1丁受け取る。
「行くぞ」
『は』
先程まで、友人関係にあった2人であったが、今は上官と部下になっていた。
(……
共闘出来る喜びをナタリーは、噛み締めるのであった。
[参考文献・出典]
*1:デイリーメール
*2:エキサイト・ニュース 2014年6月9日 一部改定
*3:『Daccan Chronicle』
*4:ウィキペディア
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