第41話 トップアイドルと共闘することになった件
ミスティーアイズのこれまでの発売アルバムには、いくつかのアニメカバー曲が存在する。
みんなが必ずどこかで聞いたことのある名曲カバーはミスティーアイズファンならば当たり前に知っているだろうし、ミスティーアイズを知らない人でも元のアニメ曲は知っているだろう。
会場の人入りは良好。東門前屋外ステージに入った観客数はおおよそ半分だ。
『ミスティーアイズの発売アルバム順、流すっス。って、さっそくデュエット譜っスか?』
舞台袖から、イヤホン越しにセナの声が聞こえてくる。
「あぁ。それでいい。できればデュエット曲中心に流してきてくれ」
『……了解っス』
セナは参謀役として今回からは舞台袖に控えるのだと言う。
観客も、セナをも巻き込めるような音楽になるといいのだが――。
まだメジャーデビューしていなかった頃のミスティーアイズは、アニソンのカバー曲が収録曲の大半を占めていた。
その中でもミスティーアイズ2ndアルバム、『
ただでさえ高音域の多い原曲キーを2段階近く上げて、さらにテンポもより速くしたこの曲のカバーは、ミスティーアイズの高音域における抜群の歌唱力と機敏なダンスを象徴するものとして彼女たちの知名度を全国区にしていった。
「あ、これミスティーアイズのカバーだ!」
「ずっと前のライブで聞いて以来だな、これ」
「これも即興? ちょっとミスティーアイズのカバーとも違うな?」
「でも、なんとなーくそれとも違うような……」
「デュエットのヴォーカル譜をソロ用にしてるんだね、これ。
「あ、確かにみちるさんの歌部分の割合濃いかも……って、えぇ!?」
各々集中して聞く、というよりかは品評会のような構図になっているのは屋外ステージならではかもしれない。
先程のライブの帰り際なのかタオルを振り回してノってくれている人もいれば、ペンライトを掲げる人もいる。
それにしてもさすがは音楽大学の生徒だ。理解がとてもはやかった。
ミスティーアイズという三人組は初期の頃から絶対的なアイドルである佐々岡みちるさんを中心に楽曲を構成してきている。
デュエット曲であれば、高音域をみちるさんが、低音域を他の二人が担当している。
今の日本でもみちるさんほどの透明感のあるハイトーンボイスと綺麗に響く
原曲キーを2音上げたアニソンカバーが世に浸透していったのも、みちるさんの実力があればこそだ。
――と、ふと客席がざわめきだしていた。
お客さん一人が会場を後にしていっているようだが……何故かその人を避けるように皆が道を空けていた。
ミスティーアイズのアニソンカバーの更なるカバーも、そろそろサビに差し掛かる。
Bメロ最後はピアノ手技で人を惹き付ける数十秒間。
スピーカーを通してピアノの音量も高鳴っていく。
高音域が魅力のみちるさんのパートがいよいよ本領を発揮する、そんな時だった。
『……て、なんスか!? 誰スか!?」
通話越しのセナがふと舞台袖で悲鳴を上げていた。
『なぁんでこんなに面白そうなことしてるのにぼーっとしてるの、セナちゃん!』
『え、み、みちるさん!? なんでこんな所に……ここ舞台袖っスよ!?』
『いーじゃん、細かいことは気にしないの。運営さんにもマネージャーにも許可取ってるんだから。それより、歌いに出たら? 舞台も袖も観客席も。主旋律を歌で埋めて、外側をがっちり演奏で固めたフルの楽曲で魅せたいって先輩くんが望んでるんならさ』
『い、いや……それはさすがに……っス……』
『ね、聞こえるんでしょ先輩くん! わざわざ
今一度観客席を見た。
観客は皆が舞台を見つめていた。みんなが、みちるさんのパートを主旋律として奏でるこの演奏と、
だからそんなお客さんの声の全てを代弁して、俺はイヤホン越しに彼女に伝える。
「――ここのファンが、それを望んでいるようなので」
『自分で空気作っておいてよく言うじゃん先輩くん! もう、仕方ないなぁ!』
そう言うみちるさんの声は明るかった。
『佐々岡みちるは、ファンのためなら時間外労働でさえ頑張っちゃうタイプのアイドルなんだからッ!!』
舞台袖から飛び出すようにして出てきたそのアイドルは、耳が酔うほどの美しい高音域で会場の雰囲気に殴り込みに来たのだった。
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