第12話 第一村人

「美味しい……」


 目を覚ました少女エイはここまでの経緯を話そうとし始めたが、どうせ夜は長いので桐生は一旦ご飯を食べさせてあげることにした。

 追加で、野菜スープも作っているので、それも後であげるつもりだ。


「口にあって良かった、おかわりもあるから遠慮なく言ってね」

「ありがとうございます!」

「委員長、私も下さい」

「シムナ……さっきも食べただろうに……」

「何故か、お腹が空きまして」


 ご飯を食べなくてもいいと言っていたシムナも何故かおかわりを要求してくる。

 まあ、より食べてくれるのは嬉しいので別にいいけどさ……

 桐生は出来たスープと二人分のおかわりを持って二人の元へ行く。

 器を簡易的に作っているので物凄く熱いがそこはシムナの氷でカバーしてもらっている。


**


「わざわざご飯までありがとうございました」


 エイは丁寧にペコっと可愛らしく頭を下げる。


「でも、何でこんなところに一人でいたんだい?」

「この森を抜けたところにある村の近くで食べられる植物を採取していたんですが、その途中でさっきの’魔轟獣’に襲われてしまい一心不乱に逃げてたらいつのまにかこの辺りまで来てしまいました」

「なるほど……」


 桐生と対面に座っているエイの顔が間にある焚き火の火柱によって揺らめき、影めいて少し表情が暗く見えてしまう。


「じゃあ、明日はエイちゃんの村まで一緒に行こうか」

「ほ、本当ですか!」

「流石に俺もここで放置出来ないからね」

「何から何までありがとうございます」


 村があるという情報は桐生とシムナにとってもかなりありがたいし、これからの段取りを決めるいいタイミングだった。


「今、エイちゃんが言った’魔轟獣’ってのはさっきの奴のことだよね?」

「はい、この大陸に生息している生物で、どんな相手でも襲ってくるかなり気性の荒い生物です」


 成る程な、魔轟獣という名前なのか……

 桐生は頷くように焚き火の方を見つめながら考える。


「エイちゃんは、’天道’で撃退はしようとはしなかったのかい?」

「わ、私は……」


 何か言いにくいのかエイは言葉を詰まらせる。

 そして、決意するように再度口を開く。


「私は’天道’をまだ発現していないのです……」


 確か、あの神が言うにはこの世界の人間は産まれながらに授かるとか言っていたな……授かるだけで絶対この年齢で発現するという訳ではない。

 また新たな発見が一つあり、桐生は情報を一つ々脳内にメモする。


「そっか、まだ発現していないならしょうがないね」

「村の中の子供の中で発現していないのは私だけで……いつも迷惑をかけているんです……」


 エイは’天道’が無い分人一倍働こうとして、こうなってしまったのかもしれないと桐生は何気なく予測する。


「今日は、一旦スープ飲んで寝ちゃおう!悩んでいても’天道’が発現する訳じゃ無いし、寝た方がスッキリすると思うから」

「そうですよね……今考えてもしょうがないことですね」

「そうだ、俺達の仲間が作った寝袋があるからこれで寝てみるといいよ」


 桐生は後ろを向き、エイに見えないように袋から寝袋を出す。

 この袋だけは絶対死守しなければならないものなので、こういう少女にも見せる訳にはいかない。

 ここは異世界で、日本ではない。落し物が返って来るという生易しいところでないので気を抜くことは許されない。


「凄い……いい作りのものですね……」

「そうだろそうだろ」


 エイがこう言ってくれたことでこの世界の物に対する指標が少し見えて来る。

 後で、ファームルドにお礼をしておかなくてはと桐生は思う。

 もぞもぞとエイは寝袋の中に入り込み寝る姿勢に入る。


「シムナの分もあるからほれっ」


 桐生はもう一つ寝袋を出しシムナに渡す。


「ありがとうございます」

「最初は、俺が見張りするから三時間交代でよろしく」


 桐生はそう言ってそそくさと木の上に登り、御船が気をきかせて秘密基地倉庫内に本を置いてくれたのでそれを読むことにした。


**


 エイが案内役となり、朝から森をしばらく歩き続けている。

 今日も相変わらずの晴天で、特にあれから襲われることはなくピクニック気分で歩いていた。


 さらに桐生はエイの記憶力にも驚いていた。

 普通、これだけの距離を無我夢中で逃げてきたら帰り道が分からなくなるのは当然だ。

 もしかしたら、この辺りのことを知ってる可能性もあったので聞いてみたらここまで来たことはないと言っていた。なので、帰巣本能的な潜在能力があるのかもしれない。


「あ!見えました!桐生さんシムナさんこっちです!」


 元気よくエイは手を振り桐生とシムナの手を引っ張ってくる。

 すると、ちょうどそこは森の終点で、崖の上に繋がっていた。そして、その眼下にはエイが住んでいる村が広がっていた。


「ここか……」

「そうです!私の村、シェルジェ村です!」

「とても、綺麗ですね」


 桐生は横を見ると崖が滑らかに下の村まで続いており、まるで螺旋階段の一部のような構造になっている。

 手前側に家々が立ち並び、奥の方には俺達の秘密基地にあった田畑の何十倍もの面積が広がっていた。もうすぐ収穫時期なのか、色々なものが実っており、ここから眺めるととても美しかった。


「こっちです!!」


 家に帰ってこられた安心感からかエイは自然と笑顔に戻っており、桐生とシムナの手を引っ張ってくるほどで、その様子から元気の良さを伺えた。


「そんなに焦らなくても村は逃げないよー」


 綺麗な草花が広がる滑らかに続く坂を降りていき、村の入り口まで到着する。

 村には明確な門みたいなものがあるわけではないので、入り口が分からない。


「エイ!!」


 すると、桐生達の姿を見て女性が一人駆け寄ってくる。エイと同じ色の長い髪を揺らし、そのままの勢いで抱きつく。


「うぅ……お母さん……苦じぃ」

「心配したのよ……」


 そのエイのお母さんが一番乗りで、その後もぞろぞろと村の人達が集まってくる。


「エイ!大丈夫だったかー」

「エイちゃん!心配してたのよー」


 村の人達、老若男女色々な人がエイ達を囲んでいるので桐生とシムナは少し後ずさり、離れる。

 今は、村人水入らずといったところなので自分たちの出番は無いと思いから遠目から様子を見守る。

 まるで、スターが帰って来たような集まりようだ。


「ほれほれほれ、皆騒ぎすぎじゃぞ……」


 最後の最後にヨボヨボのおじいさんやってくる。見た目は凄いヨボヨボなのに足腰はしっかりしていて、歳を感じさせない歩きをしている。


「村長!エイが帰って来たのよー」

「そうかそうか……今日探しに行った人らが無駄になって良かったわい」


 見ている分には凄いアットホームな村で桐生は凄いほっこりする。

 アットホームを謳うところなんて基本ロクでもないところが多かったが、本当にあるとは……

 ふと昔のことが蘇ってくるが、あまり思い出したいものではないので桐生は自分で無理やり抑え込む。


「エイにとってはあまりいいとは思えません」


 シムナは淡々と村の人たちの様子を見ながら言う。


「まあそう言うな……シムナが言いたいこともよく分かる……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

秘密基地転生 甲殻類 @koukakurui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ