第11話 出会い
「ぐるぎゅあああああ!!!」
「うるせい!!」
後ろから迫ってきた獣に対し、体をひねり桐生は自分の目の前を通過させ、その瞬間に下っ腹に食い込むよう思いっきり下から上へ拳を振り上げる。
不意打ちの一発が効いているのか少し動きが鈍くなっている。
周りにある樹木を複数経由し、その獣は襲いかかってくるが、神天道を発現させなくても、その速度にギリギリ目を合わせることが出来る。
なので、あとは上手く獣の動きに合わせて、ぶん殴るだけである。
「キュぐるっ!!」
喉の奥から出たような悲鳴をあげ、その獣は木に打ち付けられる。
基本殴打しかしていないので、ただでさえぐちゃぐちゃの顔はもうすでに顔と認識すら出来ないほどになっている。
「がぁあああああ!!!」
ふらふらとその獣は立ち上がり、口から剣を吐き出し柄口にくわえる。
口がくわえるというよりももはや顔が咥えているようにしか見えない。
「体内でそこまでまがまがしくなるのかね……」
その剣も元は人間用なのだろうが、獣の体内で変形したのか、獣の体に合ったサイズ感になり、刀身が獣の体液で湿っており、常に体液みたいなものが染み出している。
桐生はよだれと成分は同じと判断する。
「グルルルルルル……」
獣はこちらを牽制しながら喉を鳴らす。
「こいよ、化け物」
「gっ!!ーー」
獣は咥えている剣をいきなり何の前触れもなく口からこちらへ放ってくる。
その速度はただ首を回して放っただけなのに異様な速度だった。
「うおっ!!」
間一髪の所で、体勢を崩しながら顔を逸らし避ける。獣が狙ってきたのは桐生の顔で、とてつもない精度で放ってきたのだ。
そして、桐生がその剣を避けている間に、その獣は姿を晦ましていた。
あの不意のつき方だったので追撃を警戒していたが、それが杞憂に終わって良かったものの、逃してしまったのは手痛い。
「逃げちまった」
「そのようですね」
そう言って、桐生はシムナが抱きかかえている少女の様子をみる。
「これって、死んでないよね……」
助け出したのに、亡くなっていては胸糞悪いものだ。
助けたのなら、しっかり少女の方も助かっていて欲しいというのが桐生の願いだった。
「大丈夫です。一部出血していましたが、応急処置を施しましたので命には別状なしです……」
「ありがとう、シムナ」
「い、いえ。委員長の命令ですので当然です……」
シムナは、褒められて嬉しいのか少し上機嫌に返答してくる。基本いつもむすっとしているシムナだが、なぜか褒めるとわかりやすくテンションが上がるのだ。
褒めて伸ばすタイプであるーー
「一旦、俺達が寝てたところで今日は休もう、もう少ししたら日も暮れるしな」
「はい、それがいいかと……」
少女の処置をしたのがシムナなので、少女のことはシムナに運んでもらう。
勿論、またいつあいつが襲ってくるか分からないので十分注意しながら進む。
*
「よし、今日はここで野宿だ」
「はい」
さっき起こされた木の下を野営地とし、桐生は準備を進める。
シムナは少女を寝かせ、焚き火を焚く。
少女がもし目を冷ましたら飯でも食べさせてあげたいし、流石に野ざらしで寝るのはまずいので、桐生は早速御船から貰った無線を試してみる。
これは、見た目は無線なのだが、従来日本にあったような無線ではなく秘密基地用に改造された、’天道’を流すことによって使用出来るものになっている。
これはまだ二つしかなく、御船と桐生の二人だけしか持っていない。
「どうしたー?」
無線を使用すると、無線の向こうから御船が応答する。
「いや、御船からもらった袋を使おうと思ってんだけど、野営にぴったりなアイテムとかあったりするか?」
「うーん……火はつけたか?」
「ああ、火は何とかなったぞ」
「じゃあ、テント系だな……」
「そうだな、今はそっちの方が助かるかも」
因みに、食べ物などはファームルドが倉庫に入れてくれているので問題はない。
なので、そういういった日常のアイテム類やサバイバル用品がこれから大事になってくる。
桐生はこの世界のアイテムなどもあったら買ってみたいと考えているが、一番はお金をどう稼ぐかという課題が立ちふさがっているので今は考えないようにしている。
「すまねぇ、テント系は無理だけど寝袋ならギリあるぜ。ファームルドが植物で作ったやつがあるって言ってるからよ」
「いや、今はそれでもありがたい、倉庫入れといてもらってもいいか?」
「おっけー!入れとく」
「ありがとな」
「おうよ!桐生もがんばれよー」
御船から無線を切ったのでそこで話が終わるーー
御船の口調から桐生は絶対また寝ずに何かをやっていることが分かった。じゃなければこの数時間の間にここまでの対応を出来るわけがない。
袋に繋がっている倉庫を見ると、日本であったようなアイテムが色々と積み上がっていて、どんどん色んなものを作っている。
この様子だとアイテムが増えているだけでなく、この数時間でかなり秘密基地も拡張されているだろうと桐生は想像する。
「委員長……火がつきました」
「おう、ありがとう」
桐生が戻ると、シムナからその旨の報告を受け、そのまま桐生は夜ご飯の準備に取り掛かる。
因みにシムナは辺りの警戒と少女の看病を任せている。
秘密基地の倉庫にあった蓄えている食べ物を使い、適当に炒めて三人分の夜ご飯を作る。
まだ、食材だけなので味付け用の塩や醤油などは無いし、肉類や魚類も無いので食事はかなりベジタリアンである。
ただ、シムナはサイボーグで食べても食べなくてもどちらでも大丈夫なので、桐生好みを考えるだけなので超適当に作る。
適当に拾ってきた草木をお皿に見立てて盛り付け、食べ始める。
「委員長、私の分は別にいりませんよ?」
「いいの、食べなさい」
「分かりました」
そう、例え食べなくてもいいのかもしれないが、桐生的に一人で食べるのは気がひけるし、寂しいのもあるのでシムナには悪いがしっかり相手をしてもらうつもりで半ば強制的に食べさせる。
*
もう、この時間帯になると、辺りは暗くなり明かりは今桐生とシムナの向かいにある焚き火だけだ。
その火をぼーっと眺めながらご飯を食べていると横でピクッと反応がある。
「私は……ここは……?」
ゆっくりと少女は目を覚まし変な言葉を喋っている。
座っている桐生とシムナの二人を見て混乱しているのが一目瞭然だった。
……よかった。
それに、日本語で聞き取れたので言語は問題なさそうだったと言うのが桐生の心に余裕を作った。
「君が襲われていたから助けたんだ、今はこの森で野宿している。俺は桐生牡蠣、こっちがシムナ・ヘイベールだ」
「そ、そうなんですか。私はエイ、救ってくださりありがとうございます」
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