第9話 秘密基地には地下がある
シムナを連れ、桐生と御船は地下へ降りる。
地下はじめっとしていたり、暗かったりとあまり良いイメージをしていなかったが、この秘密基地はそんなこと微塵も感じないほどだった。
少し階段を下ると、そこはオシャレな木造の部屋があり、上から繋がっている、煙突付きの暖炉がある。
まだ二部屋しか無く、御船曰くこれから増やしていく予定だ。
使っている木材は上のコテージとは違い、少し明るめの色の木材を使ってあり、地下なのにあまりそれを感じない作りにもなっている。
「どうだ!凄いだろ!!」
「いやいや、御船が作ったわけじゃないだろうが……」
そう、この地下自体は上のコテージが出来た時にもう既にあったものなのだ。
「ふっふっふ!このノートの地下の部分を書いたのは何を隠そうこの俺なのだから!俺が作っているといっても過言ではないのだよ桐生くん」
そう、その部分を書いたのは完全に御船なのだ。だから全てを否定することが出来ないからまた困る。
桐生は地下まではいらないだろうと言ってあまり立ち会わなかったが、御船はどうしても書きたいと言って独自に書いていた。
「分かってるよ、で、どんな感じなんだ?」
「そうだそうだ!これ見てくれ」
御船が指差した先を見ると、そこには年輪がむき出しになっている切り株があった。
「これ?」
「そう、これがさっき言ってたノートを複製した通称’コピー木’だ!!!」
「全く通称じゃないんだが……」
「桐生にはこのネーミングセンスは分からないさ」
「はいはい、それは良いけど……他には何かあるのか?」
桐生はこの部屋の中を見回すが、暖炉とコピー木があり、その他に部屋の真ん中に会議用の大きなテーブルに椅子が備え付けられているだけだった。
「そう!こっちの部屋は言うならば会議室……本命はこっちだ!ついてこい!」
御船について隣の部屋に行くーー
一歩入ると、そこは、学校のコンピュータ室を一人用にしたような部屋になっており、五つの画面とPCのような筐体が二つ、さらにマウスと良く分からないマークのキー配列のキーボードがある。
そして、中央には本物のノートが強化ガラスの中に設置してある。
外壁や床は隣の部屋と殆ど変わらず、部屋の広さも同じくらいだった。
五つの画面の内三つには秘密基地の至る所を映しており、30秒ごとに切り替わる。残り二つの画面にはグラフやデータなどが表示されており、桐生にはさっぱりだった。
「凄いな、まさにコントロールルームか……」
「そういうことだ、まだモニターが少ないが増やせば秘密基地辺りを監視することも可能だし、やれることは無限大だ」
「よくこんなもんノートに書いたよなー」
「まあな」
それから一旦最初の部屋に戻り、暖炉に火を入れそれっぽい雰囲気を味わいつつ椅子に椅子に座り、上にいた二人を連れてきて今後のことを決める第一回、秘密基地会議を始める。
**
「えーこれから会議を始めたいと思います、ではまず今後について話し合いましょう」
「桐生、棒読みすぎだろ!」
「仕方ねえだろー慣れてないんだから」
御船に笑われながら、何故か俺が進行役をこなす羽目になる。
桐生、御船、シムナ、ファームルドの四人と無数に飛び交うファームルドの’グレープ’という小さな妖精が飛び交っている。
「これからどうするか……まずは問題になりそうだった食料、水分の方ですがそれは、ファームルドが解決してくれる」
「はい、明日には食料、水を提供することが可能ですわ」
桐生の中ではどんな植物が育つのかというワクワク感と口に合わなかった時どうしようという二つの感情が入り乱れる。
だが、どうせ腹減って入れば大概のものは美味しくなるので何とかなるとは思っている。
「次は、秘密基地をどうするかだなー」
「ああ、御船はどうしたい?」
「俺は、拡張するつもりだぜ。いざとなった時防衛出来るようにしないと身も守れなくなるしな」
「そうだな、まだグランベールの時は何とかなったがこれから安全とは限らない」
こう言う細かいことは御船の方が得意なので、防衛や秘密基地の管理は御船に寄せて動かして言った方がいい。
「俺はシムナを連れて少し出たいと思ってるんだ」
「おう!それが良いと思うぜ」
「外を俺が、中を御船がという風にした方が効率はいいからな」
「おっけーそれで決まりだな!」
そう、ここまではまあ何と無く分かっていたことであった。桐生にとってはここからが本題になる。
「まあ、他にも言葉が通じるのかとか色々調べることもあるが、一番はあの神の言っていたことを信じるのかだ……」
「あの人類が滅亡するってやつだろ?」
「神?とは何ですか?委員長」
隣に座っているシムナとそのシムナの対面に座っているファームルドは初耳なのか不思議そうな顔をしている。
「うーん何て言ったらいいのか……」
何とも答えづらい質問だ……あいつ見た目は小学生みたいだし、まじで神っぽくなかったし話の信憑性に関しては皆無だからなぁ……
色々考えたがこれといった答えが思い浮かばなかったので一番近い考えをピックアップする。
「俺達二人にこの秘密基地をくれた人……かな……」
「なるほど……それは素晴らしいお方ですね」
「そうなるのか」
「今聞いた話だとそうなりますね」
まあ、確かにこの世界にポイ捨てすることも出来たんだから、良いやつといえば良いやつになるのか……
桐生は少し納得いかなかったが、今考えても仕方ないので話を続ける。
「そーだよなー、今は自分たちのことで精一杯だからな……」
「確かにな、だが結局人類が滅亡と言うことは俺たちにも脅威になるわけだから、それをどうにかはしないと秘密基地の発展も意味がなくなる」
「そうだな、桐生には悪いがそこら辺の情報も頼んだぜ!」
「おう!」
そう、まだこの世界の情報が無さすぎるのだ、この世界がどのようになっているのか調べる必要がある。
**
十日後ーー
秘密基地はあれから少しだけ発展した。
まず、畑……ここには、桐生達が昔から食べていた日本の野菜や果物などが作られており、ご飯問題は解決した。味も問題ない。
そして、水源……これに関してはファームルドが水を掘り当て、その水を誘導し近くの川と繋げることに成功する、そこから水を引いて畑や秘密基地のメンバーの飲み水に使っている。
そしてーー
「準備出来たかー」
「はい、問題ありません……行きましょう委員長」
「よっし!行くかー」
桐生が扉に手をかけようとした瞬間、いつもなら寝ている御船がこちらに走って来る。
「どうした?御船」
「桐生行く前に渡しとく……ほれっ」
御船から二つの道具?みたいなものを投げ渡される。
「何だこれ?」
「これはさっきまで作ってた道具でな!遠くでも俺と話せる無線’トークル’と、もう一つが、地下に新しく作った倉庫と繋がっている袋’ブクロン’だ。この袋があれば倉庫に色々入れれるし、取り出すことも出来る!スゲェだろ!!」
「確かにそれはすごい……助かる」
「クッソ、お前が褒めてくれるなんてあんまりないからもうちょっと浸りたいところだが、ここ数日寝てないせいでもうそろそろ気絶する……最後にもう一つ……」
「なんだ?」
御船は目の下に濃い隈を作っており今にも倒れそうだが、何とか口を開く。
「この秘密基地の名前だ……」
「名前か……」
桐生も名前と言われ、ただの秘密基地よりは名前があった方が華があると思い、せっかくなので何にしようか考えたその瞬間ーー
「その名を’王林’!……あ、因みこれは俺の好きなりんごの名前だぜ」
そう言って、御船は白目をむいて顔面から崩れ落ちそのまま倒れてしまう。
その御船をファームルドがベッドまで運んで行く。
桐生は、りんごなら’秋陽’の方が好きだったが、自分が考えるよりかは良いので大いに賛成だった。
そして、これはノートには書いていないこの世界で決めた初めてのもの……これによってどんな事が起きるのかは分からないが、第一歩としてはちょっと遅いが良い一歩だと思う。
「行きましょう委員長……」
「すぐ行く」
シムナが扉を開けて玄関の向こうでじっと待っているので、早く行くことにする。
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