第7話 二人目の仲間


「お腹減ったなぁ……」


 次の日の朝、桐生は目を覚ますといつも通り動くことが出来るようになっていた。だが、昨日から何も食べていないせいで、全く集中力が無くなっている。


「おはようございます……委員長」


 シムナは真っ白なエプロン姿で両手にはミトンを着け鍋を持ってきてテーブルの上に置いてくれる。


「前から聞きたかったんだけど……委員長ってのは俺だけに言ってるの?」


 係の割り当て的に桐生と御船が委員長となっている。

 二人を委員長呼びされては分かりづらいので、桐生は一応聞いてみる。


「いえ、委員長と呼ぶのは一人でございます」

「じゃあ、御船のことは何て呼んでるの?」

「御船ですか……」


 ん?……

 桐生は耳に入って来た言葉が幻聴なのかと思い首を傾げる。


「え?一応御船も委員長って立場だよね」

「はい……そうでございます」


 桐生は慌てて持っていたノートを取り出しシムナの欄を見てみる。

 するとそこに書いてある設定に、こう書いてあった。

「桐生←委員長、御船←御船」

 これは呼び方を矢印で表現しており、書かれたものがしっかりと反映しているのだ。

 神天道の力でノートのことを把握していると言っても、事細かくは把握していないので時にはノートをめくる必要がある。


 こういった、キャラクターの設定は桐生と御船の二人で分担して書いている。シムナは桐生が作ったのでこういう趣味指向がはっきりと分かれている。


 桐生は、シムナが持っている朝ごはんが作ってあるであろう鍋の蓋を取り中を覗く。


「ん?……」


 桐生は、その鍋の中身を見て凍りついた。

 鍋の蓋を開けるとなったら中身は暖かいスープだったり、何かを煮込んだ料理だったりと楽しみはいくらでもある。


 だが、桐生の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。


「どうですか……私が作ったのです……」

「これ、氷だよね……」

「はい……私の得意なものです」


 シムナは胸を張り、その鍋をテーブルの上に優しく乗せる。

 とても誇らしげにしているのでなかなか桐生も直接的に言えず言葉に困る。


「起きたか!!桐生!!」


 突然、地下から出てきた御船が元気よく飛び出してくる。

 物凄い目が輝いており、日に日にテンションが高くなってる気がする。


「起きたんなら!!地下案内するぜ!!」


 そう言って御船は桐生の手を引くが全く力が感じられない。これは桐生がわざとやっている訳ではなく本当に御船から力を感じられないのだった。


「御船……寝てないだろ」


 目元にはびっしりと深い隈が見え、すぐさま桐生は気づく。

 こんなの誰が見ても分かる……

 そう言われ諦めたのか御船は座り、机に突っ伏す。


「だってよー凄げーんだぜ」

「分かった分かった、後で一緒に見てやるから今は寝ろ」


 桐生の声が聞こえていたのか分からないが、ものの数秒で御船は眠りについていた。


「はぁー全く……御船は集中すると周りの声が聞こえなくなるから大変だ……」


 机に突っ伏している御船を担ぎ上げ、何とかベッドに移動させる。

 それから、桐生は地下のことは変に触ると怒られそうなので目先の目標飯と水を何とかする為に動き出す。


 そのためにはまず……


「シムナこの鍋んだけど外に出して置いてもいいか?」

「いいですが……どうされるのですか?」

「外に出して溶かし水にする」


 よし、これなら自然な流れだろう。食料よりもまずは水の確保が重要だ。

 後は食料だな……

 桐生は食料をどうにかするべく思考する。


「では、私は外で追加で氷を用意しておきますね」

「そうしてくれ、助かる」


 そういうとシムナは鍋を持って外に出て行き、氷を溶かしに行ってくれる。


「んじゃ、俺はこの家でも散策するかー」


 意外とこの家は広く、木造三階建てで、まだ一階部分しか桐生は見れていないのだ。

 一階には広いリビングと、キッチン、それにベッドルームが二部屋ある。他にも空いている部屋がいくつかあり、日本に住んでいた頃よりも豪華な家だ。


 何かしら食べ物が無いかと上に向かい、二階、三階と見て回ったが、上には空き部屋があるだけで殆どこれと言ったものが無かった。


「こうなったら外から何かしらの食べ物を探し出さないといけない訳だが……」


 いや、待てよ……確か……

 ふと、おもむろに桐生はノートを開きページをめくる。


「この係ならいけるんじゃないか……」


 早速試してみるべく、二階に上がり誰もいない部屋に一人、座る。

 部屋の内装はとても簡素で、ベッド一つに机と椅子があるだけだ。


『神天道’秘密基地’<係『畑』作成>』


 そう、畑係……新メンバーの追加だ。

 桐生が通っていた小学校はかなり田舎で、畑があり、その畑を管理するのが畑係だ。

 案外楽な係だったので人気トップ3にいつも入ってる係だった。


 昔のことをのんびりと思い出していると、この部屋の壁や床など至るところに変な模様が浮き上がってくる。

 その模様は軽く光っていて、どんどんその数が増えていく。


 そして、何故かその模様が増えていくごとに桐生は息が荒くなり、苦しみのあまりその場にうずくまる。


「なんだこれ……はぁはぁ……めっちゃ疲れる……はぁ……」


 運動もしていないただ座っているだけなのにまるでずっと走っているような感覚に陥る。

 まだ、二十代だぞ……そんなたるんではいないはず……

 毎日早朝のランニングは欠かしていない桐生はそんな体力が落ちたとも思っていなかったので突然の体調不良に驚きを隠せなかったが、一つ原因をあげるなら今のこれしかない。


 いや、恐らくそうだろうと桐生は確定させる。

 桐生は目の前に作成された畑係の当番、ファームルド・スープに視線を移動させる。


「初めまして牡蠣委員長……わたくしファームルド・スープと申します」

「おう、よ、よろしく……」


 丁寧にお辞儀したファームルドは、人間ではない。

 シムナよりは口調が優しく、その姿も口調同様に優しそうな表情をしており、人の姿ではあるが、これもまたシムナと同じように、中身は違う。

 穀霊神という種族で、緑色の綺麗な長い髪が特徴的で、柔らかそうな肌に、首から下にかけては胸と尻が出て、ウエストが引き締まっているという最強スタイルの持ち主だ。

 どこか母性を感じられ、麦わら帽子にひまわりの描かれたワンピースを身にまとっている。

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