第6話 ノート

 体には陽の光が当たっているのかぽかぽかと暖かく、天国のような場所が目の前に見える。

 また死んでしまったのだろうかと思っていたが、その考えが間違っているという事がよく分かる。

 桐生は目をゆっくりと開け、天井があるのを確認する。さっきまでの暖かさは横に付いている窓から射す陽の光によるもだと確認する。


「ここは……」

「お!桐生!起きたか……」


 顔を横に向けるとそこには御船の姿があった。


「お前こそ大丈夫だったのか?」

「なんか俺は平気だったというか治ったんよな突然」


 御船は、神天道により自分にふりかかっている特殊状態を綺麗に更新すうることで治すことが出来るようになっていた。


「俺は、なぜベットで寝てるんだ?」

「桐生、覚えてないのか?戦った最後に顔面から倒れただろ、そん時にひどい脳震盪を起こして気絶したんだ……らしいぜ」


 桐生は手で顔を抑えて、倒れた時のことを思い出す。

 何か強い攻撃を受けて倒れたり、誰かを庇ったりして倒れたならまだ良いが、単純に前のめりに倒れたとなるとただただかっこ悪い。

 その羞恥心を見られるのが嫌なのか、桐生は天井を見上げる。


「でも、目が覚めたなら回復も早いかもな」

「俺は何日くらい寝てたんだ?」

「いや、一晩越したくらいだから大丈夫だぞ」


 それを聞いて少し桐生は安堵する。

 何日も倒れていたら体がなまってしまい、それを治すのが大変になってしまう。


「これが、’秘密基地’か……」


 桐生は辺りを見渡すが、思っていた秘密基地とかけ離れていた。

 思いっきりどこからでも見える草原にあるし、周りから目立ちまくりで全く秘密ではない。


「そういうこった。俺たちが貰った’神天道’だ。中々広いぜこれ」

「いや、どう見てもただの家じゃないか……巨大な木造のコテージって感じだ」


 そう、ここはどう見てもただの家。


「確かにここはそう見えるかもな……」


 何か含みのある言い方をした御船は、スーツの胸元からあのノートを取り出す。

 桐生はどこに入れてんだよとは思ったが、それよりもやはりノートの方が気になる。


「これ、覚えてるか?」

「ああ、これは俺達が小学生の頃に書いた秘密基地のノートだな。まあ九十九%妄想だけど」

「そう、このノートに書いた設定に基づいて秘密基地は出来てんだよ」

「へぇー」


 何せもう何年も前に書いたノートなので二人は詳しい内容を覚えてはいなかったが、この神天道が発現したおかげで二人は色々と思い出していた。


「桐生!お前が考えたのがこれだ……」


 そう言って御船がノートの一部分を指差す。

 桐生はそこをのぞいてみると、確かに木造のコテージを書いている。そして、さらに色々そこには書いてあった。


「この家はカモフラージュ?……」

「そう!これは表には普通の家にしか見えない!だが、実は地下にとんでもない巨大な秘密基地があるというものだ!!」

「なるほどな……」


 桐生は、何を書いているんだと自分で思ったが、今こうやって現実になってみるとあながち悪くないと思う自分がいて複雑な気分になる。


「しかもだな!」

「まだあるのか……」

「この次のページには、これだ」

「しかも……この木造コテージの周りは罠が張り巡らされた湿地帯のジャングルで囲まれており、様々な猛獣が徘徊しているので見つける事すら不可能?……」

「そういう事だ!」

「いや、全然わからん……」


 そう、周りはジャングルとは言うが今この周りは何もないただの草原、隠すどころかウェルカム状態なのだ。

 それにこんなところに家建てて、この土地持ってる人に怒られそうなものだ。


「でな、最初はただの小さな小屋から始まって、次がコテージ、てことは次は徐々にこの周りが開拓されて行くんじゃねぇか?」


 成る程、最初の小屋からこのコテージにグレードアップした時、同時についてきたもの……いや、逆かその人物が増えたからこそ、この秘密基地がグレードアップしたと思っても良いのか……

 気づいた桐生は御船と顔を向かいあわせる。


「係か!!」

「そういうことだぜ桐生」


 そう言って二人でキッチンに立っているシムナを見つめる。

 すぐに桐生たち二人の視線に気づき、こちらに振り返る。


「何かご用でしょうか……」

「いや大丈夫だ!ただ見ていただけだから!」


 御船が親指を立てて「ぐっ!」と腕を突き出すが、意味が分かっていないのかシムナは御船を無視してキッチンでの作業を再開する。


「係を増やして仲間を割り当てる、そうすることで秘密基地も一緒にグレードアップして行くと思っているんだよ!」

「確かにそれは一理あるかもしれんな……」

「でだ!」

「なんだ?」

「これはどういう事だ?」


 御船が指差すページには係について書いてある。それはいいのだが、下の方を見ると付け足したかのように係を割り当てるのは一日一回までしか出来ないというものだ。


「これ書いたの桐生だろ」

「ん?」


 確かに、筆跡が上に書いてあるものと違う。それにby桐生と横に添えられている。

 この証拠二つで桐生は逃げられない。


「いやーこれはすまん」

「はぁーまさかこうなるとはなー」


 確かに、この回数制限で秘密基地の力を上げて行く速度は落ちてしまう。


「けど、一日一人なら一週間で七人って考えれば多い方だろう……な!……」

「そうだな。今言ってもしょうがねぇよな!!」


 何とか二人で励まし合いなるべくポジティブに行くことを考える。


**


 結局あれからノートをある程度見た後、桐生が完全に動けるようになってから地下を見せてくれるというので恐らく明日には拝める。

 そして、このノートはとても大事なものらしく地下にある動力装置みたいな場所に設置しとかないと秘密基地が崩壊するらしい。


ーーしかも離しておける時間はわずか十分。


 その間に全てのページをコピーし、御船が一晩かけて複製ノートを作った。

 どうやってコピーしたんだと桐生が聞いたら、この秘密基地の中には木製のプリンターがあったらしく、それを使って複製したと言っていたが、まだまだ謎が多い。


 そこで、二人でそのノートを一冊ずつ持つことにして、本物のノートは厳重に設置したままにしようと桐生が案を出し直ぐに決定した。

 セキュリティ関係は御船の方が詳しいので、どうするまではわからないがどっちにしろこのノートは絶対に人には見せていけないということで二人の中で結論づけた。

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