第5話 最初の仲間と役職
「シムナ・ヘイベールか……」
「私の名を……ありがとうございます……」
シムナ・ヘイベールとは、桐生が考えたキャラクターで秘密基地の体育係として書かれている。
人造人間という設定にしており、この係は当時小学生だった時にあった係を元に書いただけであり、役職とイコールだと考えると早い。
桐生としてもここまで人間らしいとは思いもしていなかった。
小学生の時に書いた時はもっと機械っぽいものを想像していたが、これが神補正というやつなのかもしれないと桐生はふと考える。
さらに、横を見ると力尽きたのか御船は寝ている。
いつもなら一番に飛びついてきそうな程元気だが、相当この黒煙が効いている事が一目で分かる。
「シムナ……やれそうか?」
「余裕です」
「よっしゃ俺が誘導するから、あいつの眉間をぶち抜いてくれ」
「分かりました」
一人仲間が増え、さっきまでは秘密基地の耐久力しか上がっていなかった桐生だが、今はシムナの分の身体能力分上がっている。
これなら、何とかやりあえる。
「素晴らしい……これは殺りがいがありますね!!」
さっきよりもさらに高濃度な黒い煙が吹き出し、視界が悪くなる。
この濃度だと、桐生も直ぐに御船みたいになってしまう。
シムナは基本、後方支援に特化しておりかなり目が良い、それも共有されるのか、さっきまで視界が悪かったのに徐々にそれが無くなっていく。
「これなら行けるーー」
視界が明けると、グランベールは十体の黒い煙で作られた兵士がこちらに迫って来ていた。
この兵士に触れればさらに御船への道が早くなるということにもなる。
だが、迷っていても仕方ないのであの十体をかいくぐるルートを選択する。
今のこの体なら、かなりの速度で駆け抜けられる……
「シムナ……雑魚(黒煙兵士)処理も出来そうか?」
「余裕……です」
シムナの支援がある今、桐生は一切のことを考えずただただ突っ込むだけでいい。
シムナは白銀の1911系に似たハンドガンをしまい、己の身長程ある巨大なスナイパーライフル(モシン・ナガンM1891に似たライフル)を持ち出し、地面に伏せる。
シムナ自体身長は150中盤に位置しているので、そう考えるととんでもなくでかいライフルとなる。
さらに、シムナはスコープを使用しない。己の目が相当良いのでそれだけで仕留められる。なので、逆にスコープがあると不安定になるし、スコープがないことによって光の反射が無いので敵に気づかれにくいという利点をとっているためだ。
そして、桐生が煙で視界不慮だと思っているグランベールの作った兵士が一体桐生の元へたどり着き、襲いかかろうとして来た瞬間ーー
その煙の兵士はシムナの弾の衝撃で上空へ吹き飛ぶ、そのまま上空で凍りつき、四散する。
そして、そちらには一瞥もせず桐生は一気にグランベールの元へ走り出す。
グランベールは予期していたのか桐生がいきなり現れても全く驚きもしていなかった。
「お待ちしてましたよ!人間!!」
「さっきのお返しさせてもらうぞ魔族!!」
拳と拳が激しくぶつかり合い、攻撃力防御力共に互角レベル。拳がぶつかるたびに凄い衝撃波が周囲に発生するので近くにいた残った三体の黒煙の兵士はとうの昔に吹き飛び消え去っていた。
残りの黒煙の兵士はシムナが全て撃ち抜いており、数体は氷のオブジェのようになっていた。これはシムナが持つ神天道’瓦解氷消’。
秘密基地'王林'の係を持つ人はそれぞれ神天道を持ち、これは桐生や御船が小学生の時に考えてノート書いた能力が具現化されている。
そして、桐生の目も慣れ、完全に周りのことを把握出来るようになる。
「ここまでの人間になるとは、この急激な進化!実に興味深い!!」
突如、グランベールの背中の翼が腕のように変形し腕が四本になり、攻撃がさっきの二倍の量襲いかかってくる。
「あんたも厄介すぎるでしょ……くっ!!」
何とか桐生は四本さばくが、途中にシムナの援護射撃が入ってやっとって感じだ。シムナの命中率は百%に限りなく近く、さっきからグランベールには命中するが、凍りついてもすぐに体に弾かれてしまう。
「まだまだ行きますよ!!」
グランベールの体からは新しく三本の尻尾が追加されついにこちらの防御が間に合わなくなってしまった。
右二本の腕の横薙ぎを躱し後ろから迫る三本の尻尾による突き刺しを跳んで躱す、そして一本の左腕をシムナが打ち抜き一定時間残り一本の左腕が桐生の腹に直撃する。
「ほう……」
桐生はその腹に入った一撃を気合いで堪え、その一本の左腕を手刀で叩き折る。
「ぶっ飛べぇえええええ!!!」
そして、その一瞬を使い背後に周り顔面をぶん殴る。
「ーーbぅべがう!!!」
力一杯ぶん殴り、グランベールは後方へ勢いよく吹き飛ばされるが即座に新たに生やした翼で持ちこたえる。
桐生の腕には真っ黒な血のようなものが付着しており、それを振り払う。
「委員長……二人で行きましょう……」
後ろから走って来たシムナはそのままハンドガンに切り替え桐生を追い越すと、グランベールに向かって攻撃を再開する。
「そのほうが良さそうだな……」
「鬱陶しい小娘ですね……私が用のあるのはあなたではありませんよ!」
「あなたは私で十分事足りる」
シムナはグランベールの攻撃を全て受け流すか躱し、氷の銃弾を的確に腕や足の関節を狙って撃ち、徐々にグランベールの動きが鈍くなる。
これにより、シムナの氷は弾かれてはいたがノーダメージでは無いことが分かる。
「本当に鬱陶しい!!!」
四本の腕による左右同時攻撃をシムナは微笑みながら軽く小突くと四本の腕は流れるように千切れ地面に鈍い音を鳴らし着地する。
二人でねぇ……確実にシムナ一人で倒せそうなものだが……
桐生は、甚平の袖を捲り頬を叩き気合いを入れながら走り出す。
「これは!」
「奢りすぎ……」
四本の腕を無くしてもなお冷静にグランベールは黒煙の剣を尻尾で操りシムナを牽制する。
シムナはシムナで新たに腕を生やさせないよう確実に急所を狙いその隙を与えない。
神天道’秘密基地’の能力ーー
これは、桐生だけが使える能力で、秘密基地の恩恵を受けている視力や防御力、瞬発力など全ての恩恵を受けたものを一部身体能力や己に流れる天道に一点投入する。
「神天道’秘密基地’<攻撃特化>」
一点投入しているので他の部分はノーガードの状態と同じになる。なので使ったら最後、グランベールの放つ攻撃をかすっただけで大怪我は必須、黒い煙の効果も諸に受けてしまうのでチャンスは一度だけしかない。
桐生の体は真っ赤なオーラのような光に包まれると、全ての効果が攻撃へ移動する。
「私の邪魔をするなぁああああ!!!」
シムナの余裕な態度にイライラするグランベールの視界には桐生が映っているだろうが先ほどまで脆弱な攻撃だと思っているので特に対処することがない。
「あなたの負けです……」
ハンドガンを両足にあるレッグホルスターにしまうとシムナは戦闘を終了する。そのまま桐生の方へ振り返り歩き出す。
「それはお前たちだぁあ!!!」
隙だらけのシムナに向けて四本の腕を思いっきり振り下ろそうとするが、体の節々が凍りつきグランベールの体はそこから一ミリたりとも動かなくなる。
「な、なんだこれは!?」
「委員長……思いっきりどうぞ……」
シムナは桐生とすれ違いざまに小さく呟くと、そのまま御船の方へ歩いていく。
桐生は、一人で解決出来なかったことに劣等感は覚えたが、今は御船の命が最優先だとその考えを振り払う。
「御船のお返しだ、馬鹿野郎……」
丁寧に動けないグランベールに向けて腰を落とし軽くひねる、そのままただ思いっきり腕を振り抜く。ただただ真っ直ぐに……
「くそがあぁあああああああああああああ!!!!」
拳がグランベールに触れた瞬間、豆腐をのような柔らかさで体に突き刺さる。さっきまでの硬さはなんだったのかと思うほどに簡単に体を貫き、その拳が触れた時に発生した衝撃波が殴った箇所を中心に五重の円のように広がりハウリングし、グランベールの体を中から砕く。
「貴様……」
「じゃあな、グランベール」
衝撃波の轟音の中、グランベールは不敵に笑う。
「これでお前ら人間の滅びへのカウントダウンが早まるぞ……」
「早いも遅いも結局俺らがやらないといけないみたいなんでな、あんま関係ないんだわ」
「この世界にいるのは神や魔族、人間だけではない、もっと……」
そのままグランベールは言葉の途中で息絶え、体が灰のような粉状になり塵となって消えて行く。
「あれ?……」
桐生はグランベールを殴った後、無防備な状態で黒煙を浴びてしまったので、そのまま体に痺れが周り思いっきり顔面から地面に倒れてしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。