第3話 天道の第一歩


「おい、御船いつまで寝とる起きろ」


 あれから、数時間が経っているが桐生達は最初いた場所から数十メートルも動いていない。

 いつかは日が暮れ、腹も減り、喉も乾くのにほんと呑気だと桐生は自分で思う。


「あれ?ベールヌイちゃんは?」


 一回の問いかけで目を覚ますと起き上がりさっきまでいた自称神を探している。


「夢でも見たんじゃねぇか?」

「つれねぇぜ桐生……分かってて言うなよな……」


 御船はこう言うふざけた面はあるが、時に案外しっかりとした反応を見せる。

 これは、昔からの事なので今更桐生は驚かない。


「さ・て・と、これからどうするかねー」

「まずは、ベルヌーイちゃんから貰った神天道とやらを見てみようぜ」


 御船はそう言うと、両手を突き出し体をうねうねさせ何かし始める。


「何してんだ?」

「いや、こうやれば発動できるのかなと思ってだなー」

「俺達それぞれの天道すらどう言ったものか分からんからな……」


「しっ!!御船!」

「桐生も気づいてたか……こりゃやばいぜ」


 突然、さっきまでほのぼのしていた草原の雰囲気が一瞬で消し飛び、凍てつくような殺気で皮膚が焼けるように痛い。そのおかげで何者かがいるのがよく分かる。

 勿論、草原に目に見えての変化は無いが、ベールヌイから貰った’神天道’のおかげかはっきりと分かる。


 ただ、姿は見えない……


「おい!隠れてねぇで出て来やがれ!」


 御船は挑発的な態度で言うと、俺達の前に男性が一人現れる。


「まさか、気づかれるとは……たかが人間風情に……」


 その男は、人の形はしているが目の白目と黒目が逆で、皮膚が真っ黒。それに着ている衣類も真っ黒なスーツみたいなものを着ているので境目が見づらい。


「この世界で最初に会うのが神で、その次はまた人外って……どうなってんだよ全く」

「やはり……神に越されてしまいましたか……残念……」


 何か一人ごとをつぶやいているそいつは明らかに雰囲気が歪で、隣にいる御船もかなり警戒している。


「まずは、自己紹介からですかね……私はグランベール……魔族でございます」

「魔族?」

「神から聞いていないのですか?」

「んなもん聞いて無いよな桐生?」

「ああ、あの神は何もせず俺達を放置だ」


 あえてここでは何かしらの神天道を貰ったことは伏せておく。

 そして、桐生は御船の適応力の高さに驚かされる。


「では、死する前に教えてあげましょう……この世界にはいくつもの種族が存在し、この大地は’天大陸’と呼ばれ人間が住む場所となっております」

「んじゃ、あなたは不法入国者ということですね」

「……そうなりますね」


 グランベールからは「それが何か?」という態度が言動からにじみ出ている。


「で、なぜ俺達に近づいたんだ?」

「ああ……それは、今少し探し物をしていたのですが一々聞いて回るよりも殺していって死体に直接聞いた方が早いかなぁと思った次第でしてね」

「そんで、俺達もその探し物のついでに殺されると」

「ご理解が早くて助かります」


 グランベールは軽くお辞儀すると、手を差し出す。


「どうするよ桐生……」

「うーん……」


 御船は戦闘経験ゼロ、体すら鍛えていないのでここは桐生がやるしかない。


「仕方ない……俺がやってみるよ」

「え!マジ?」

「いやだってやらないと死んじゃいそうだし」


 二人は一回死んでいるので若干死への抵抗感が鈍っているのもあるかもしれないが、ともかくものは試しだと桐生は考えていた。


「また死ぬのはごめんだから一応抵抗させてもらう」


 体の力を抜き、手をぶらんと下げ直立し気持ち少し前のめりになり、かかとを少し浮かす。これが桐生の戦闘スタイルだ。


「構える暇があったらもう少し周りを見た方がよろしいですよ?」


 準備を整えた瞬間、一切反応出来ない程の速度で桐生との間合いを詰め気づいた時には拳が桐生の腹に突き刺さっていた。


「っぐtぇ」


 本来ならこの威力だと貫通しそうなものだが、そうはならずそのまま後方へ吹っ飛ばされる。

 100mいや200m程飛ばされると思っていたが、なぜかさっきまではなかったはずの小さな木造の小屋に突っ込み、勢いを全て吸収してもらい参事は免れた。


「いっでぇ……」


 腹の痛みと突き刺さった小屋の破片で見事に身動きが取れない。

 トレーニングサボっていたのがこういうところで如実に出るとは思っていなかったので桐生は後悔するが今は目の前の敵だと自分に言い聞かせる。

 その小屋の天井を見上げるとそこには変な模様が描かれており、小屋の中心には見たことがあるノートが置かれているのが見える。


「あれって……俺達が書いた秘密基地ノート」


 死ぬ前のあの世界から持って来た覚えもなく、なぜそもそもこんなところに小屋が建っているのかが謎なのだが桐生がそんなことを疑問に思う前にーー

 頭の中に感覚として情報が大量に流れ込んでくる。


「これは……」


 桐生達の’神天道’というのがどういうものなのかという大まかな概要が脳内にインプットされる。

 というのは全ての情報を書き込むと今の二人にはかなりの高負荷になってしまい、下手したら死んでしまうためだ。


「おやおや、生きているとは運がよろしいですねー私の’邪道’に触れても生きている人間を見るのは初めてですよ」


 いつの間にか、直ぐそばまで来ているグランベールは真っ黒なオーラをまとい、不敵な笑みを浮かべていた。


「魔族ってのはこんなもんかいな……」

「ほう……立ち上がるか……」


 桐生は何とかやせ我慢をしながら、ゆっくりと立ち上がる。

 さっきはよくも殴ってくれたじゃないの……

 そのグランベールに対するイライラだけが募っていく。


「んじゃ、やりますかな……神天道’秘密基地’<係『学級委員』発現>」


 その掛け声と同時に、壊れていた小屋が一瞬で修復され体が一気に軽くなる。身体中の筋力や瞬発力などが遥かに上昇し、先ほどまで嫌な感じしかなかったグランベールへの意識がそこら辺にある草木に向ける感情と同等レベルまで下がっていた。


 桐生は、中央に設置してある秘密基地ノートの一ページ目をめくるーー


 そこには、この小屋の説明と使い方などが詳細に書かれており、明らかに小学生の時に書いたもの以上になっている。

 だが、書いた使い方などは殆ど一緒。

 まさか、あの妄想秘密基地が現実のものになるとはな……

 そう、桐生の’神天道’は……いや、桐生と御船のと言った方が言葉的には合っている。

 桐生は、’神天道’<秘密>、そして御船は神天道<基地>……この二人の神天道を合わせて、’神天道’<秘密基地>となる。

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