第2話 自称神とかいう戯論
「うっ……」
「ここは?……」
目を覚ますとそこはさっきまでいた秘密基地ではなくとんでもなく広い草原に寝そべっていた。
横には御船が寝っ転がっており、どうやら二人で天国に来たようだと桐生は悟る。
「おいおいまじか……」
「まさか、木が腐ってるとはな……」
「いや、そっちじゃないんだけど」
御船は立ち上がり、辺りを見渡すが全く何もないことを確認したのか諦めて坐り直す。
「俺が登ったせいでああなっちまってすまなかった桐生」
「いいよ別に、どうせあんなところにいてもどのみち死んでるのと同じようなものだしな」
そうやってぼんやりと二人で綺麗な景色を眺めていると突然目の前に花びらが一枚ふわふわと不規則な動きで落ちてくる。
その花びらは一瞬桜かと思ったがどうやら違うらしい……
二人でその花びらが地面に落ちるまで目で追っていると、突然その花が光だし辺りを真っ白な空間に包み込まれる。
「なんだこれ?」
「あれじゃねぇか?神様的なやつじゃね?」
「確かにな、まあここがまずどこか分からんからな。俺は地獄に一回分の飯代賭ける」
「ほーんじゃあ俺は天国に一回分の飯代賭けるぜ」
「では、私は天国でも地獄でもない方に一回飯代を賭けさせていただきましょうかね?」
二人の会話に女性の声が混じったかと思ったら目の間に本当に女の人が現れる。女性と言ってもその姿はまるっきり小学生のような体型で、何故かランドセルを背負い、手には中央に丸い穴が空いた三角定規を持っている。
足までつきそうなほど長い髪だが、それに色は無く無色透明。ランドセルの後ろには小さな羽が生えており、着ている真っ白なTシャツには「私は神」と書かれており、色々主張が激しい奴というのが一目で見て取れる。
「誰?」
「ふっふっふ!私は神!この世界を統べるものだ!」
「ーーいや、そうじゃ無くて名前とか色々と詳しく頼むぜ!」
とんでもない早口でいうと、隣で御船は目を輝かせて、その少女に今にでも襲い掛かりそうな体勢をとっている。
昔から、御船は見た目は良いのに重度のロリコンで何回も告白されてきたが全て即答無理で終わらせた男でもあるのだ。
というか、神がする格好では無いしもうちょっとどうにかならなかったのか……これじゃあ痛いだけのような……
その視線を飛ばした瞬間なぜかベールヌイに睨まれたので桐生はそれ以上思考するのを止める。
「そ、そうですね……私の名は、ベールヌイ。君達をこの世界に呼んだ張本人ってわけです!!」
「世界?」
「そう!ここは天国でも地獄でもない異世界なのです!!」
「は?いやいや俺達は死んだんだぜ?」
「はい、その通りですね。その後に私がこの世界に呼び出したのです!!」
横で御船がブツブツとベールヌイを観察しながら何か言っているので、ここは全て桐生が応対する。
「まあ聞きたいことは多いがまずは自己紹介からだな。俺は……」
「桐生牡蠣(きりゅう かき)さんと加藤御船(かとうみふね)さんですね?」
「あ、ああ」
ベールヌイは本物の神だと言わんばかりに桐生の心を読んで来る。
終始笑顔の自称神ベールヌイだが、目は全くと言って笑っていないので、こちらとしては全くといって油断できない。
桐生としてもどうせ死んでるからここで殺されようがあまり代わりはないと思っていたが、一回目の時は即死だったから良いが、次は痛みを伴うかもしれないと考えたら当然嫌なので、なるべく穏便に済ませたいと考える。
「でも、なんで俺達を?」
「うーん……何となくピーン!と来たからです!」
「はぁ……」
勢いよく、ベールヌイは指を指し示してくるが俺の反応の薄さに瞬時に反応し話を続ける。
「この世界の人間はあなた方のいた世界と違い、’天道’という力を使います」
「’天道’?」
「ええ……この世界では人は生を受けた時、’天道’を授かるのです。その授かる’天道’の効果は人それぞれで戦いに向いたものや私生活に向いたものなど幾重にも及びます。それに’天道’は人間の攻撃する力や己を守る防御力、瞬発力などにも深く関わってるのです!」
「じゃあ、もし手からビームが出る’天道’を授かったら本当に手からビームが出るのか?」
「はい!その通りです!!」
それは、凄いーー
実際、どこまでのことがd家いるのかは不明だが、その’天道’が無いとこの世界で生きて行くには色々不便な点が多くなるのは分かった……だが……
「んじゃあよぉベールヌイちゃん、もし物を燃やす’天道’を授かった場合は物の範囲はどこまでになるんだ?」
今の今までベールヌイに見とれていた御船が突然正気を取り戻し、口を挟む。
「それは、年齢や人生経験、知識、健康状態など様々な要因で変わってきますよ、ですがそれは確定的なものでは無いので基本的にはその人本人にしか分かりません。まあ、分かると言っても感覚的にですがね」
「で、俺たちはこれからどうすれば?」
そう、最大の疑問だーー
どうして呼び出したのかは何となくとはベールヌイ本人は言っていたが、何かしら目的があるはずだ。
桐生はダメ元でもう一度問い直す。
「うーんそうですねぇ……表向きは第二の人生を謳歌してくださいというものになってしまいますが、本心を言えばあと私の見立てだと数年で人類は滅亡してしまうので救っていただけると幸いなーのです!」
「そんなことよ!ふぐっーー」
桐生はすぐさま御船の口を手で塞ぎ考える。
桐生たちはやられたのだ。
もうこれでは神の言うことを聞かざるおえない、二人の余命があと数年と言われているようなものだ。
数十年生きたいならやらないとどのみちこの世界で生きていく意味がないことを知らしめられてしまった……知らなければもしかしたら関わらずに済んだかもしれないのにだ。
桐生はベールヌイを睨むと、舌を出し可愛くウィンクしてくるが今は悪魔としか思えなかった。
「勿論!私も協力しますよ!この世界に生を受けたお二方には私特製’神天道’をお渡ししたいと思っております。そうじゃ無いとすぐ死んじゃいそうなのでね?」
「’天道’じゃないのか?」
「まあ、天道の上位互換だと思っていただければ……特別ですからね?」
ベールヌイは両手を自分の体の前で合わせ二人を見据える。
その目力はかなり強く、二人にも緊張が伝わってくるほどで、桐生は自然と御船の口から手を離していた。
「最後に、一応お聞きします!このまま死んだということで本当に天国地獄ということも出来ますがどうしますか?」
「どうする?御船」
「どうするよ桐生」
二人は同時に各々に向け聞きあう。
「ふっ……ふふふ……いやいや愚問だったな。このまま新たな生を受けたって言うんなら面白そうだしやってみるか」
「そういうとこだぜ桐生、やっぱ俺と同じ思考してやがる!」
「では、お二人とも同意ということで?」
「ああ、大丈夫だ」
「では、参ります」
ベールヌイが何かを発動したのか一瞬まばゆい光が俺達を包み込みほんの数十秒じっとしているだけで完了してしまった。
「もう終わりか?」
「はい!これで大丈夫です!内容は私にも分かりませんので後で確認してくださいね!」
「じゃああとはその人類が滅亡するかもしれない要因なんだが……」
「分かりません!」
「は?」
二人は一瞬耳を疑ったが、目の前にいる自称神は一切訂正をしないのでどうやら自分たちでやることになると悟った桐生は一人空を見上げる。
「神でも分からないことなのか?」
「まあ、私も人間ばっかりに肩入れするのはどうかと思うのでそこら辺はご自分でお願いしますね」
正解ーー
嫌な答えが当たると言うのはあまり気は良く無いがもう決めてしまったのだから時すでに遅し。
「では、私はこれで失礼しますね」
「まだ、色々聞きたいことがあるんだが……」
「そこら辺もご自分で頑張ってください!」
「なら、最後に一つだけいいか?」
「何でしょう?」
「いつ飯を奢ればいい……」
「へ?……」
ベールヌイは予期していなかったのか桐生の質問に口をへの字にしている。
「そうですね……では人間を救っていただいた時に奢ってもらいます!」
「ベールヌイちゃん……」
可愛い表情でニコッと言うとベールヌイは姿を消す。
すると、辺りに花びらが舞い散りさっきまで無風だったのにも関わらず草原が揺らめく。
「おい、普通救ったら俺達が奢ってもらう方だろうが……」
消える間際にベールヌイが見せた表情に昇天し倒れた御船を横に、桐生は恐らく神に聞こえていないだろう愚痴を小さく吐き捨てる。
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