秘密基地転生
甲殻類
最初の試練
秘密基地
第1話 仕事やめた
暖かい光が瓦礫の隙間から差し込み、ほのかな暖かみを感じつつ桐生牡蠣(きりゅう かき)は幼馴染の加藤 御船(みふね)と二人で小学生の時に作った地元の裏山にある秘密基地に来ていた。
御船は、がっつりスーツ姿に髪型を整えていて、真っ黒のツーブロックにしている。昔は少し太り気味だったが今じゃその面影は全く無く、がっつり社会人の二十三歳だ。
その対照的に桐生は髪もボサボサでヒゲもそり残りが……それに衣類は濃い青の甚平というかなりラフな格好である。
秘密基地は作ったのがもう十年以上も前なので、桐生はまさか残っているとは思ってもいなかった。
だが、それよりも不思議なのは連絡も取っていないのに桐生と御船の二人がたまたまこの場所で居合わせたというところだ。
これも何かの運だろうということで買い出しをしてお酒とつまみを買い揃え、秘密基地でちょうど咲いている桜を見ながら花見をする。
秘密基地は森に不法投棄されていた洗濯機やタンスなど様々なゴミを使っており相当大きな基地になっている。
自然と一体化したような基地で、森の奥地で小学校の間他の友達と遊ぶこともなく二人係でつくりあげた。
「かんぱーい!!」
アルミ缶とアルミ缶がぶつかる音が静かな森の中で響き渡り、二人だけの花見が始まる。
「まさか、桐生とまたこうして会うとは思わなかったぜ」
「俺もだよ、たっく運がいいのか悪いのか……」
御船とは中学までは一緒だったが、それからは学校は別々、たまに一緒に遊んだりはしていたが、社会人になってからはめっきり交流が無くなっていた。
「それにまだ、ここが残ってるとはなぁ……」
「小学生の時に作った割にしっかりとしてるよな」
「それにこのノートまでよ……」
御船が取り出したのは、秘密基地内にあったノートだ。劣化して、ところどころ破れてたりはするがしっかり見れる。
このノートは秘密基地を作る時に書いた設計書だ。設計といってもそんな大層なものではなく、小学生が考える落書きみたいなものだ。
だが、小学生が書いたにはよく出来ている方で、魔法や砲撃など色々な秘密基地に備わっているものを面白がって妄想して書いていた少し早い中二病だ。
「てか何だよこれ給食係って……秘密基地だけ書けばいいのにこんなの当時俺たち書いてたのかよ!」
「え?」
御船が開いているノートを覗くとそこには、小学生の頃あった係に自分たちで想像した人物を配置していた。
それを見て桐生は昔の記憶が蘇る。
「ああ、そう言えばこんなの書いてたなぁ……」
「給食係に世話係、色々書き込んでんだな」
係ごとに色々な人やオリジナル生物を配置して軍隊みたいなことを想像していた。
こういう過去のものを見ると新鮮で、なんだか小学生の時に戻ったように思える。
「んじゃ!これを書き足すかな!」
そう言ってスーツの胸ポケットからペンを取り出し、御船は何かをそのノートに書き出す。
『この秘密基地は難攻不落の無敵要塞!世界最強秘密基地!!』
「おいおい……子供じゃないんだから……」
「いいじゃねぇかよ!別に減るもんじゃない」
「別にいいけどさ……」
すると、御船はパッとノートを閉じると急に空を見上げる。
「桐生はなんでここに来たんだ?」
「分かってていうのか?」
「え?俺、マジで分かんないんだけど……」
「はぁー」
桐生は酒を軽く煽り、御船同様空を見上げる。
見上げると綺麗な桜の花が枝を離れ舞い散っている。
「今やってることに嫌気がさしてな……何が人助けだよ……くそ……」
「確か桐生って自衛隊だっけ?」
「ああ……入って損した」
「え?じゃあ抜け出して来たのか?!」
「御船、何を驚いてんだ?別に今に始まったことじゃない」
御船は横でかなり驚いていたが、桐生にとっては日常茶飯事でどうせ帰っても相手にはされないし、たかだか数百回筋トレさせられるだけだ。
「御船はどうなんだよ」
「ああ、まさか桐生と理由までかぶるとは思わなかったぜ!俺も会社やめて来た」
「は?お前あの大手のシステムエンジニアになったんだろ?!そっちの方がどうかしてる」
まさか桐生の方が驚きが大きいとは思わなかったのか、本当に目を見開いて驚くのを見て御船は少し動揺する。
「うるせぇやい……性にあってなかったんだよ」
「そうか……俺達は考えることもやることも似た者同士ってわけだ」
「そんなこと小学生の時から分かりきってたことよ!」
御船は立ち上がり、この森一番高い木の上に登る。
秘密基地は下の階層と上の階層に分けていて、上はツリーハウスのような基地になっている。
今考えるとよくここまで作ったものだと思うが……
「うんめぇー!!!」
ビールを一本持って行った御船は上でしか見られない最高の景色を肴に叫んでいる。
さぞ美味しそうに言うので、桐生もつられてもう一本開けてしまう。
「おーい!!桐生も来いよー!」
「俺は無理ー!高所恐怖症なんだよー」
高校生時代に同じことを言った覚えのある桐生はため息交じりに言い換えす。
桐生もこの秘密基地を作った本人なので勿論木に登って作っていた。しかし、小学生の時は全くそんなこと無かったのになぜか大人になるとダメになっていたのだ。
桐生は御船が登っている木の幹に体を軽く預けて、敷いてあるレジャーシートの上で寝っ転がる。
「いかんな……」
空を再び見上げるが先ほどよりも酔いが回ってきたので、景色がぼやける。
普段殆ど飲まないのにテンションが上がって二杯も飲んでしまったのが原因だ。
少しうとうとしてきて目を閉じたり開いたりとうろうろしていると何かが軋むような音が聞こえてくる。
徐々にその音は大きくなり、さっきまで静かだった森にまるで天災でも襲ったかのような爆音だ。
「桐生避けろぉおおおおおおおお!!!」
御船の声にはっと両目を見開くと上から御船とツリーハウス、それに巨大な大木が凄い速度で降ってくるところだったーー
一瞬何が起きているのか理解するのに零コンマ何秒かかかったが、それよりも前に体が勝手にその場を離れようと行動を開始する。
「くそっ!!」
いつもならこれくらい避けるのなど簡単だが、酔いが回っていたせいで行動が鈍りいつもの半分以下の力しか出ない……
これでは、両者全滅だーー
何とか体勢を起こし上を見た時に御船と目が合うとそのまま二人は
……死んだ……
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