第27話 プロチーム真の実力……?

 第2ラウンドの開始直後、信じがたい物を目にした僕は叫ぶ。


 突如、転がってきた複数の手榴弾。


「車両やブロックの陰に伏せて!」


 正確に安全地帯を見切れたのは、僕とアリサのふたりだけだった。

 第2ラウンド開始直後にゲーマーチームの拠点は、至る所で手榴弾が爆発し、10名が死亡した。


「手榴弾バグなんてあるのか!」


 両軍の拠点は1Kmは離れているので、手で投げた手榴弾が届くはずはない。

 だが、背後の画面外へ向かって投げた手榴弾が、マップの反対側に飛んでいくようなバグがあったのだろう。


 さらに、2両有る戦車の内、1両が爆発した。


「見えていない位置から対戦車ロケット砲を当ててきた?」


 これは、テクニックで可能だ。

 たとえ、相手陣地が見えていなくても、射程制限のない武器だったら、特定の位置から特定の方向を狙って撃てば、目標に当てれる……。


 けど、高層ビルが沢山有るのに、RPGが都合良く着弾するか?


 マップを研究し尽くしているプロチームなら可能か?


 動画配信中だから、分かりやすいバグをするとも思えないし、全部、テクニック?


「アリサ、全力で仕返しだ!」


「オッケー!」


「敵は速攻で来る。先ずは僕たちふたりで敵の足を止める。僕は生き残った戦車で地上のごみ掃除。アリサは地下道の汚水処理。ヤツラの面を糞塗れにしてやれ!」


 僕はアリサの闘志を煽る。


「任せろ! ゲロ塗れにしてやるぜ!」


 アリサは妙に高いテンションでバギーに飛び乗ると後輪を滑らせて駆けだした。

 第一ラウンドで無口だったから、その反動か……。


 僕も負けてられないな。

 気合いを入れていこう。


 僕は、戦車の使用を解禁する!


「M1A2エイブラムスは藍河和樹で出るぞ!」


 僕は調子に乗って、ロボットアニメ風の台詞を口にして戦車で出撃した。


 ふっふっふっ……。


 対人キルレート0.6の糞雑魚の僕が、なんでアリサのような変態プレイヤーと肩を並べられるか教えてやる。


 戦車搭乗時の僕のキルレートは3.5だ。


 戦車キルの勲章取得数はBoDⅡ全600万プレイヤー中、2位だぞ!


 オンライン対戦が過疎っていたけど、世界で2番めに戦果を上げたんだぞ!


 戦車に乗ると味方と連携しづらいから大会では戦車を使うつもりはなかった。

 けど、プロ相手には全力を尽くすしかない。


「マップは昨日、調べた。誰が射線に顔を出すかよ! 橋は越えさせない!」


 僕がマップ中央の橋を射程に収めると、遠方からソ連軍の主力戦車T-90が二両、ビルに隠れつつ主砲を撃ってきた。

 さらにふたりの工兵が、遮蔽物を利用しつつ接近中だ。


「狙いが甘い! オレはここだ!」


 ロボットアニメの台詞を連発しつつ、僕は1対4という不利な状況で1分間を護りきった。

 その間に敵戦車1両、兵員輸送車両1両、装甲車2両撃破、歩兵4名を倒したぞ!

 相手プロだぞ!

 プロ相手に無双してやったぞ!


 僕の戦車は何発か直撃を喰らって爆発寸前だったが、復活した仲間が前線に向かってきているはずだから、役割は果たした。


 敵の増援が対戦車ミサイルを撃ってきた。


「右、いや、正面か!」

 普通に正面から撃たれているのは分かってる。


「踏み込みが甘い!」

 踏み込んでも何も変わらない。


「前に出るから!」

 敵は別に出てきていない。


「出てこなければやられなかったのに!」

 いや、出てこなくても倒すけどね。


 僕は、己を鼓舞するために、叫びながら戦った。


 戦車にさえ乗れば、プロにだって負けない!


 僕が一番、戦車をうまく使えるんだ!


「おい、アルファーワンって、十台だろ。なんで昭和のダンガムを知ってんだよ」


 うげ。いつの間にかバギーに乗ってやってきたA3の笑い声。


「聞こえてました?!」


 やばい。

 近くに誰もいないと思って調子に乗っていた。

 恥ずかしくて、顔が熱い。

 シリーズ伝統とはいえ、なんで戦車の中と外で会話出来るの?!


 バギーにはA4も乗っていた。

 A4が駆け寄ってきて、ブロートーチで戦車の修理を始めた。


 大破していた戦車の体力が、みるみる回復していく。


 BoDシリーズ究極の兵器は、このブロートーチだよな。

 数十秒で戦車を完全修理出来るし、敵兵士を焼き殺すことも出来るし、恐ろしいテクノロジーだぜ……。


「スパロボとかで知った口だろ?」


「あー。今だと動画配信とかあるし、そっち?」


 どうやらふたりとも国民的ロボットアニメ、ダンガムを知っているようだ。


「父さんがブルーレイボックスを持ってるんですよ」


「あー。そっか親がリアルタイムで見た世代なんだ」


「高校生がリアルタイムって、SEEOとか?」


「中学の時にダイバーズ見てました」


「中学で、ダイ、バーズ……」


「若っ……。ジェネレーションギャップ感じるわー。俺、中学の時、Wだぞ」


 同時に喋られると、どっちがどっちか分からないけど、却って会話がしやすい。

 言いたいことをとりあえず言ってみる会話はけっこう楽だ。

 あまり面識のない人と、その場のノリで適当な会話をすることが、ゲーム中のチャットの醍醐味だよな!


 A3もA4もボイスチャットだと多弁になるようだ。

 ふたりとも昨日の練習中は、けっこう無口だった。

 だから僕たちのチームになったんだし。


 僕もつられて、色々と喋る。


 けど、雑談は何時までも続かなかった。


 せっかくの緩い雰囲気を、爆炎が吹き飛ばした。


 狙いすましたように戦車砲が、ブロックの陰に居たA3を葬り去ったのだ。

 僕は一瞬、画面に出たキルログを疑った。


「は? この距離で1撃? 弾頭強化? 狙撃パック? 爆風ダメージの範囲、広い?」


 再び爆発音がし、少し離れた位置で対人トラップを仕掛けていたA4も吹き飛んだ。


「ビルの隙間と隙間を抜ける一瞬を狙って、125mmが当たる? 見えてから撃ったって着弾は間に合わないし、そもそも、いつ通るか分からないのに、予め撃った?」


 難しいが不可能ではない。

 予め、敵が現れるであろう位置に攻撃を置いておくことはある。


 不審に思いながらも僕は戦車を敵の射線上から逃がす。

 僕の後退を好機と見たのであろう敵の戦車二両と歩兵ふたりが、猛攻を開始した。


 僕はゲーム台詞を口にする余裕をなくし、必死に活路を求める。


 プロチームは、ゲームシステムをよく理解した攻撃をしてきた。


 僕の戦車が弾を再装填している間に、プロチームは戦車の砲では壊せないブロックに隠れる。


 普通に上手い!


 対人戦闘では糞雑魚でも、戦車を使えばプロ級を自称している僕でも、ちょっと厳しい。


「やっべえ。敵の戦車を警戒しないといけないのに、歩兵が横に回りこもうとしてる。あ。やばい、やばい。RPG来た!」


 敵の攻撃を喰らい、車体のいたる所から煙が吹き出し、動きが遅くなってきた。


「くそっ。逃げる!」


 遠距離にいる敵の射線上に車体を晒すことになるが、退いた方が助かる見込みが大きいと判断した。


 だが、僕の戦車が交差点にさしかかった瞬間、125mm砲の火線と、ロケットランチャーの噴煙。


「駄目だ! 当たる!」


 金属のひしゃげる音とともにゲーム画面は暗転、コントローラーが激しく振動。


 僕の操作する戦車は爆発し、僕は死んだ。


「くそっ……。悔しいけど、敵が上手すぎた。連携が取れすぎている。……放送局を占拠して状況報告しているやつがいる?」


 次々とキルログが出ている。

 援護兵が蘇生している可能性もあるけど、ほぼ壊滅している。


 僕が呆然としていると、単独で自由行動をしていたアリサも死亡した。


 隣を見ると、顔を真っ赤にしたアリサが湯気を立ち昇らせながら、ゲーム画面を睨んでいる。


「くそっ、いまマップ上に何人残ってる? 早く再出撃しないと!」


 拠点制圧戦だと再出撃が可能になるまで1分もあるが、僕はAボタンを連打した。

 ボタンの連打は無駄な行為だが、気が焦るばかりで、どうにもならない。

 戦車か工兵が居ないと、中央道を押し切られる!


 さっき、やられる寸前に敵戦車の履帯を狙って撃っておいたから、命中していれば、それなりの時間稼ぎにはなったはずだけど……。


 1分経過して再出撃すると、直後、アリサも出撃した。


 拙い。アリサが死んでいたということは地下道を突破されたことを意味する。


 敵は中央の橋を越えて、米軍拠点間近まで来ているはず。


 さらにジェシカさんや他のプレイヤーも一斉に再出撃してくる。

 さすがに相手はプロだ。殆どの味方がやられていた!


「作戦変更! 敵はもうマップ南側に来てるから、地上で迎え撃ちます。的になるだけだから車両は禁止! 僕が前線で敵の頭を叩く。アリサは狙撃で援護して」


「えー。狙撃ー」


 アリサは突砂を得意とするが、狙撃も超絶技量だ。

 アリサが狙撃すれば、キルレートを下げたくない敵プレイヤーの動きは鈍るはず。


「頼むよ。アリサにしか頼めないんだよ」


「えー。どうしよっかなあー」


「頼んだからね! 他のみんなは建物に隠れながら僕を追いかけて。移動のタイミングはジェシカさん、お願い」


「Bravo one roger. 任せろ」


「中央まで押し返せば、橋と地下道で、攻める選択肢が増える! みんな、中央目指して頑張って!」


 先陣をきって走りだすと、何の前触れもなく画面が赤く染まったので、咄嗟に放置車両の陰に飛びこむ。


「え? 何を喰らった? ライフが6割削られた。狙撃? 何処から?」


 混乱から立ち直る間もなく、味方が次々と狙撃で死亡していく。


 さらに、ゲーマーチームの拠点に再配備された戦車が、画面に現れるのと同時に、敵戦車の主砲の餌食になる。


 僕達が100mも進まないうちに、敵の制圧射撃が壁のように立ちふさがる。

 キルゾーンにおびき寄せられているだけだ。

 完全に一方的な展開になっている。


「くそっ。前に行けない! 少数精鋭が突破するのを完全に警戒している!」


 背後から背中を揺さぶるような爆音。

 敵戦車が、ゲーマーチームを拠点から1歩も出さずに倒していく。


 リスキル――相手チームのプレイヤーを復活したと同時に倒す――状態だ。

 ゲーマーチームは、出撃ボタンを押して兵士が画面に現れたと同時に爆発し、死亡している。


「くそっ、あいつ等、絶対にぶちのめす!」


 イラつくばかりで打開策がまるでない。

 認めたくはないが、リスキルは勝つための戦術だ。

 リスキル可能な位置を制圧させてしまう方が悪い。


 第2ラウンドが始まったばかりなのに、既に詰みそうな状況だ。

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