第14話 僕、何かしちゃいました?
ローディング中に表示されるテキストによれば、ステージは森の一画、数キロメートル四方が戦場になったようだ。
昨日、一回だけ遊んだマップだ。
深い夜の森なんだけど、ステージ演出として炎上している車両が周囲を照らしていたり、掘った穴にガソリンか何かを入れて作った焚き火が有ったりして、明るい場所もある。
さらに、上空に照明弾や曳光弾が行き交ったりして不定期に明るさが変化する。
やりこんでいないからマップの要所が何処かは分からない。
行き当たりばったりでやるしかないな……。
ゲームルールは《制圧戦》。
拠点を制圧し続けるか敵兵を倒すとポイントが入り、先に100ポイント入手したチームの勝利だ。
2ラウンド先取の2本勝負で、決着が付かなかったら《殲滅戦》ルールで戦うらしい。
1ラウンド目は僕達一般ゲーマーチームが米軍を操作し、アスリートチームがソ連軍を操作することになった。
僕は突撃兵を選択し米軍拠点に出撃。
OgataSinというIDが頭の上に出ている兵士を見つけ、いつもどおり近づいて声をかける。
「Sinさん、どうやって攻めます?」
しかし、返事がない。
「もしもし。Sinさん、聞こえてます?」
……へんじがない。ただのしかばねのようだ。
「もしもーし、Sinさん、マイクオフになってません?」
チャットの設定はオープン。
ゲーム内で近くにいれば、敵味方問わずに声は届くはずだ。
自分のマイクを確認してみると、オンになっている。
やはり、Sinさんが喋っていないようだ。
「Sinさん、Sinさん何か喋ってます? 聞こえないです」
「アリサ、お前だよ、お前」
「え?」
「え?」
Sinさんの声に、僕とアリサが同時に驚いた。
「ん? カズが呼びかけているのはアリサだろ?」
「あっ!」
合点がいった。
ジェシカさんは、僕がアリサに話しかけていると勘違いしていたのだ。
僕が話しかけた相手はSinさん……。
あれ。Sinさんって、どっちだ?
僕、今、誰に話しかけてた?
「カズ、紛らわしいからジェシーかアリサって呼べよ」
「あ、うん。アリサ、作戦どうする?」
ジェシーと呼ぶのが気恥ずかしいので、話しかけやすいアリサに振る。
「どうするって言われても分かんない。ジェシー、どうするの?」
「これからはお前がボイスチャットをするんだから、自分で考えろよ」
「や。無理。アリサ馬鹿だもん」
「オレは操作方法すら分からない、Fucking NOOBだぞ」
「うー」
ジェシカさんの言葉が気になって周囲を見てみれば、想像以上に初心者が多いようだ。
みんな操作方法が分からないまま適当にボタンを押しているらしく、手榴弾が爆発していたり、匍匐前進で木をよじ登ろうとしていたり……。
背後からナイフで僕を攻撃しまくっているやつも居る。
BoDは爆発物以外は味方にダメージが通らないから、まあ、放置。
自分のIDを使っている僕とアリサ以外は、GameEventJapanという文字と数字の組み合わせなので、誰が誰なのか分からない。
とりあえず、じっと立っているGameEventJapan11がジェシカさんだというのは分かる。
あと、僕を殴ってる奴。振り返って確認したら、GameEventJapan12だ。
というか、モジャモジャしてる。
絶対あの人だ。
現実世界でモジャモジャしていた人が、ゲーム中の装備でもモジャモジャしている。
とりあえずモジャモジャは無視して、アリサと作戦を決めなければ……。
「アリサ、僕、ジェシカさん、モジャモジャがチャーリー分隊になっているっぽい。座席順だね。とりあえず分隊で一緒に行動して、拠点、取りに行く? 昨日遊んだ感じだと拠点Aのコテージが激戦になりそう。先に中央を制圧してポイント確保した方がいいかも」
「むー。アリサ、本当は凄い作戦を思いついたけどカズに任せる」
完全に丸投げだ。
いや、まあ、別にいいんだけどね。
僕とアリサはふたりとも突撃兵なので、味方の先頭に立って前線を押し上げる役目だ。
BoDⅡは過疎っていたから、全員、知っているプレイヤーだった。
だから、全員、チャットしなくても連携が取れるくらいには顔見知りだったし、戦術を共有できていた。
しかし今は、知らない人ばかりで、不慣れなマップ。
どう行動すれば良いのか方針が決まらない……。
敵拠点と味方拠点を結ぶのは三本の道。
中央の拠点Bは僕達の米軍本拠地から近いから、奪いやすい。
先ずは中央拠点Bを取ってから、AかCの劣勢な方に駆けつける作戦で行くか。
「アリサ、とりあえず、Bに行こうか」
「うん」
普段なら、ゲーム開始後数十秒が経っているんだから、チームのほぼ全員が前線に走りだしているはず。
既に拠点の制圧が始まったと、画面に表示されるんだけど、未だ、敵味方に動きはない。
みんな初心者だから「最初に動くやつ」の様子を見ているか、単に動きが遅いのだろう。
旧シリーズ経験者の僕が先陣を切るか。
僕は左スティックを押しこんで、走りだす。
ただ前線に向かって走りだしただけなのに、何故か、拠点内の味方からどよめきが起こる。
「おい、アイツ、真っ直ぐ走りだしたぞ」
「ホントだ! 回転もせず真っ直ぐ走ってる!」
「上を向いたり下を向いたりせずに動いてる!」
「な、なんて動きだ……!」
ん?
みんないったい何を驚いているんだろう。
もしかして僕、大会ルールに違反したとか、Ⅴのマナー無視とかしちゃった?
とりあえず、誰に向けるわけでもなく、呟く。
「あのー。僕、何かしちゃいました?」
「あ、いや……。スムーズに歩いたかと思ったら急に走りだしたから……」
歩いただけで驚かれる?
椅子に座っただけで驚愕されるWEB小説でもあるまいし……。
……あっ、そういうことか!
「僕はモーションセンサーじゃなくて、周辺機器のゲームパッドを使っています。だから真っ直ぐ走れるんですよ」
僕以外のみんなはゲームマット上での加重で歩く速度や方向を変えているから、初心者は思うように歩くことすらままならないようだ。
というか、このゲーム大会、練習時間くらい設けようよ!
まともに動けるのは僕とアリサだけか。
「アリサ、このままだと敵がここまで来ちゃう。僕達ふたりで先行。敵の速攻を防いで、リスキルを阻止」
「分かった」
僕が走りだすと、アリサは遅れることなくついてくる。
周りが盆ダンス中なので、当たり前のことなのに感動を覚える……。
アリサは後ろに居るからゲーム画面には映っていないけど、画面左下の隅にあるミニマップに位置が表示されるから、場所が分かる。
僕達は接敵せずに拠点Bに到達。
倒木が有るから、陰に伏せる。
拠点に一定時間滞在すると制圧成功となり、時間経過によってポイントが入る。
マップには拠点が三つ有るから、多くの拠点を制圧した方が有利だ。
今、AとCは中立状態。
僕達が居るB拠点が、制圧開始中……。
「アリサ。初めてのマップだし慎重に行く? それともここの制圧は味方に任せて、AかBに行く?」
「カズに任せる」
「じゃあ、当初の予定どおり、先ずはここを確保」
FPSは少数で突っ込んでいって勝てるものではなく、味方と連携する必要がある。
だから無理して他の敵陣へ向かわず、僕達は敵の出方を見ることにした。
拠点Bの制圧が完了したと同時に、敵が視界に映る。
「右頼む!」
「OK!」
距離約30メートル。
僕は左側の兵士の胴体を狙って三点バーストのアサルトライフルを撃つ。
パパパンッとひとつの音となった三発の弾丸は、おそらく二発が胴体に命中する。
銃身が跳ね上がり、運が良ければ三発目が頭部に命中してダメージ三倍で敵を殺せる。
命中が胴体への二発だけだったとしても、相手のライフを三割くらい削っただろう。
と、そんなことを一瞬の間に考えたわけではないが、僕は着弾を確認するよりも先に、同じ敵に再度、三点バーストで射撃。
パパパンッ。
相手は死亡し、画面左上にキルログが表示される。
Kazu1111 M16A2 GameEvent103 HeadShot
OgataSin M16A2 GameEvent104 HeadShot
同時にSinさん、じゃなくて、アリサも敵を仕留めたようだ。
多分アリサは、僕みたいに銃口の跳ね上がりを利用したヘッドショットではなく、最初から敵の頭部を狙って、三発だけできっちりと撃ち殺している。
二対二の状況でアリサが敵を倒すのは当然として、僕も倒せたのは運がいい。
いつもは、アリサは敵を倒すけど、僕は先に敵から撃たれて死ぬことが多いから……。
ようやく追いついてきた背後の味方からざわめき。
「おい、今の見たかよ」
「み、見た……。いや、見えなかった」
「数発しか撃っていないのに敵が死んだ……」
「敵に弾が当たるって、やばくね?」
初心者の目には30メートル向こうの敵を撃ち殺したことが、凄いことのように見えるようだ。
こんなのオンライン対戦じゃ、みんな当たり前にやるんだけどね。
いかん、いかん。
周りの反応を気にしている余裕はない。
何故なら敵がふたりだけだったとは限らないのだ。
ゲーム開始と同時に敵集団が同じ速さで走ってきているのなら、近くに、まだ居るのだ。
だから僕は、敵の死体のあたりに向かって手榴弾を投げた。
倒せればラッキーくらいのつもりだったけど、手榴弾が転がっていった先に敵兵士がやってきた。
そのタイミングで手榴弾が爆発。
敵を倒した。
さらに画面中央には、敵への命中を意味する赤いマークが一瞬映った。
敵兵士の姿は視認できないが、ヒットマークが出るということは、他にも敵が居るということ。
「Sinさん、あとふたりいる」
「アリサだよ!」
アリサが抗議しつつ手榴弾を投擲。
敵の予測地点よりやや手前に落ちたが、爆風ダメージで2キル。
これで4人倒した。
もし敵がまだ居るなら、反撃してくるはず。
……数秒待っても反撃はない。
多分、敵は居ない。
そう思わせておいて、こっちの突撃を誘う場合もあるけど、多分、ないだろう。
相手はプロスポーツ選手だから、FPSの駆け引きは出来ないはず。
残り8人の敵はマップ左右の拠点AかCに向かったのだろう。
「アリサ、このまま中央の道を進んで、裏からAを取りに行こう。Aには二階建てのコテージが在るから、籠もられると奪いにくい」
「うん。分かった」
僕は倒木から飛びだし、道の端を走る。
カーブを曲がった所で、対人地雷の爆発に巻き込まれてダウン。
居ないと思ったけど、敵が潜んでました。
残念。
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