第11話 三

若い女性の瞬発力は苦手だ。

俺の顔を覗き込んで

「あー! ホントだ。やーさんだ〜」と笑っている。

初対面の強面オヤジなんかに動じる事が無い。

早速、俺の横に並んで2人が座り「ママ~、生2つ! と、お腹すいたー!」と言ってから「やーさん、何食べてるの?」「茗荷の天ぷら? 渋い〜」とやたら元気がいい。遠慮がない。

やーさん、やーさんと話しかけてきたと思えば仕事の愚痴だろうか、「だから、やってらんないっていうのーっ」「ねー、バッカバカしくて飲まなきゃやってらんねーっつーのー」なんて2人で鼻息を荒くして生ビールを勢いよく飲んでいる。

この年頃の娘さん達とは波長が違うのだろう。俺にはついていけない。


さてさて。今日はこれを飲み終わったら…と思っていると、向こうの彼らの方が先に「ママ、ごちそうさま」と財布を出していた。


こういう店は間合いが難しい。

店主の手が空くのを待っているうちに帰るタイミングを逃すなんて事がありがちなのだ。


「やーさんは、ぼーさんを知ってる?」

急に横から話しかけられ

「いや。知らない」

と答えた。

「世の中にはー、自分にそっくりな人が3人いるって言うじゃないですかー」

「ああ、言うね」

「やーさんさぁ、ぼーさんにそっくりよ」

「そうらしいね」

「アハハー、もう誰かに言われたぁ?」

「このお店に来てから、皆さんにそう言われますよ」

「だよねー、ぼーさんを知ってるお客さんなら、皆そう思うでしょ」

「タクちゃんに、やーさんっていうあだ名を付けてもらったんだよ」

「アハハ、タクちゃんに?タクちゃんらしいわ。うまいわ。アハハ」




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