第6話 霧

「あら、そうなんですか。じゃあ、良かったらまた寄ってくださいね」

「ええ。また来ます」

タクちゃんに続いてお会計をしてもらうと

「はい。お夜食」とママさんがまだ温かいおむすびを二つ持たせてくれた。

タクちゃんは子供みたいな笑顔で「オレ、これ食べながらかえろ~」とすぐに銀紙を開いている。

裏口から店の外に出るとうっすらと霧がかかっていた。

「じゃぁ、また。やーさん、またここに来てくださいよ」

「ああ。その時はまた」

とお互いに挨拶をしてそれぞれの帰る方向に歩き出した。

が、たしか夜中だったな。ぼーさんが美眺橋に現れたのはと思い出し

自分もタクちゃんの行った方向に踵を返した。

タクちゃんは歩くのが早いのかもうすでに後姿は無かった。

俺は一人、人の居ない夜の道を川に向かって歩いた。

霧の向こうから川の流れる音がしてくる。

水の匂いがする。

郵便局の見える信号で止まると外灯がアーチを描くように橋が見えた。

橋の中央に行くと、歩道が少し広くなる。

俺はそこに立ってみた。

夜の川は黒く流れる。外灯の明かりが反射して白く波を描いて見えた。

「ここから… かもしれないな」

何故だかもう随分前に止めたタバコが吸いたくなった。

「しかし。だとしたら目立つな…」

タバコの代わりにスーっと息を吸う。

夜の冷たい湿っぽい空気が体の真ん中に届く。

ふと、後ろから誰かに見られているような気がして振り向いた。

が、目を凝らして見てもただ暗い夜が静かに揺れているだけだった。



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