第5話 裏

さて。

ぼーさんは最近はこの店に現れない。かぁ…。

美眺橋のところにいたという人物は、誰だったのだろうか。


「今日はもう誰も来ないわね。悪いけど、今日は店じまいにするわ」

とママさんが暖簾をしまい、外の灯りを消した。

聞いたわけじゃないのに「この時間から入って来るお客さんは、もう他所で飲んできて、だいぶ酔いもまわっているから、、、なかなか帰らないのよ」

と言ってタクちゃんに「あなたも、それ飲んだら終わりよ」と空いた器を下げて行った。

タクちゃんがこちらに向かい「初めてこの店にきたお客さんなのに、裏口から帰されるって。やーさんにぴったりですね」とニヤリと笑う。

「裏口から?」

「そうなの。ごめんなさいね。シャッター降ろしちゃわないと、お客さん入ってきちゃうから」

ママさんは洗い物を始めてどうやら片づけをしているようだ。

グラスに残る焼酎を飲み干す前に小鉢に残るつまみをさらってしまったほうがいいな。

「え~。ママぁ。オレさぁ小腹がすいてるんだけど~」

「家に帰ってカップラーメンでも食べないさい」

「ちぇ~っ」

タクちゃんが諦めたように残りの焼酎を飲み干して

「ごちそうさまー」と財布を出した。

俺も慌てて焼酎を飲み干す。

「私も。お会計お願いします」

ママさんが、「ちょっと待っててね、これ片づけちゃうから」と言って手際よく片づけをしている間、

「タクちゃんはこの近所に住んでるんですか?」と聞いてみると

「近所でもないな。あの、美眺橋の向こうのアパートだよ。やーさんは?」

「いや、俺はちょっと仕事で来てるから。駅前のビジネスホテルに泊まってます」

「へぇ。珍しいね。こんな田舎に。土地の調査か何か?」



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