第17話 手紙



 一人で走る私は、何かの石に躓いて転んでしまった。


 背後から魔物が追いかけてきているかもしれない。


 早く起き上がって、この場からはなれるべきだ。


 けれど、私は立ち上がれなかった。


 己の無力さが胸に突き刺さる。


 地面に這いつくばる私は、ふところから手紙をとりだした。親元を離れて過ごすようになった後、アスクからもらった最初の手紙だ。


 いつもお守り代わりに、持ち歩いていたものだ。


 辛いときは、いつもこの手紙から力をもらっていた。


 でも中身を読んだのは最初の一度だけ。


『カチュアは聖女になれるくらいに、とんでもなくすごくなれるから、頑張るんだぞ。俺も応援してるし、いっしょに頑張る』


『悪役令嬢にいじめられても、頑張れ。かわいい女の子とかイケメンとかが話しかけたら友達になっておくんだぞ。そいつらすごいから』


『ピンチになったらお兄ちゃんが助けてやるから、闇堕ちとかせずにな! カチュアは笑ってる方が可愛いんだから』


『いじめられたり、魔物の群れに囲まれたりしても、俺が守る! だから、その後はたくましく生きてくれよな。そばにいられなくなっても俺はいつでも見守ってるぞ!』


 思えばアスクは、不思議な男の子だった。


 未来に起こる色々な事を分かってるみたいだった。


 だから、こんな事が起きるのも、わかっていたのかもしれない。


 私に会いに来たら、こんなことになる事くらい想像できていたのかもしれない。


 でも、アスクは傍にいてくれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る