第10話 今生の別れ
空を見上げる。黒い雲が西の空から近づいてくる。今にも大粒の雨が落ちてきそうだ。
私は懸命に走った。塾は仮病で休んだが家の鍵を学校に忘れ、時間をロスしてしまった。
「ああ、日が暮れてしまう」
日没と共に逝くと次郎丸は言った。まだ間に合うだろうか、太陽が雲に隠れていてよくわからない。
真っ直ぐに堤防を走った。もうあの声が聞けなくなると思うと、感傷的になった。
(まだ行かないで……)
最後に伝えたい言葉がある。
息が切れて、心臓が爆発しそうだった。
土手の先に天草緋色が見えてくると、私は手前から急斜面を駆け降りた。
「あっ」
あろうことか私は、子供の頃から幾度となく駆け下りた斜面で躓いた。脚がもつれて倒れ込み、酒樽が転げるように勢いよく川へ落下した。
「柊さん!」
水音に天草が気づき、叫ぶのが聞こえた。水は冷たく、流れは速く、立とうとしたが足が地面に届かなかった。
「緋色くん、た、すけて……」
手足をバタつかせたが濡れた衣服が重く、あっという間に押し流された。
段々と意識が薄れ、眼の前が真っ暗になった。
川底で次郎丸の声を聞いた気がした。
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