意外な結末
瀕死の男から託された手紙にはいくつかの単語とその単語の後に数字が書き込まれている簡単な物だった。単語のいくつかは俺でも知っている花の名前だ。そこから、知らない単語も花の名前だろうと予想できた。そうなるとやはりこの手紙は花の注文書にしか見えなくなる。瀕死の男から託され、追い詰められたとたん自爆を選択する様な男が狙っていた物とは、とてもではないが信じられなかった。
何かの暗号かと思い色々考えてはみたが、答えは思いつかない。手紙をひっくり返してみたり、斜めにしたり、日に透かしてみたりしたが別の文書が浮かんでくることもなかった。
手紙を眺めながら歩いていると遠目に石造りの城壁が見えてきた。王都に着いたのだ。俺は手紙を封書に戻すと再び布で包んで懐に入れた。
俺が歩いている街道が真っ直ぐに王都へと伸びており、城壁にぶつかった所には門が設置されている。門の脇には衛兵の詰所があり、衛兵二名が門の前で警戒の目を光らせていた。
「止まれ!」
俺が門に近づいて行くと衛兵に止められた。
「ここは王都グリンガム! 王都へ来た目的を述べよ!」
目的を聞かれ、俺は答えに窮してしまう。特に目的はないからだ。
「強いて言えば……届け物? かなあ」
「届け物? 配達人には見えんが、君は冒険者かね?」
その呼ばれ方にも思わず首を捻る。
「そうなのかなあ?」
「ええい、届け物とは何だ!?」
イライラしてきたのか衛兵の語気は荒くなり始めた。
「ピスティールという店に封書を」
「花屋に? まあ、良いだろう。では、入領審査をするからブックを見せてくれ」
「……ブック?」
俺の目が点になる。
「ん? ああ、ブック。スキルブックだよ。早く見せなさい」
どうやらブックとはスキルブックのことのようだが、それでもわからない。
「何です? それ?」
「は?」
俺の疑問に衛兵が固まる。
「いや……何って……。スキルブックだよ。君のスキルを確認したいんだ!」
「……スキル……」
立て続けに聞かされる耳に馴染みのない単語に冷や汗が流れる。スキル……つまりは持っている技術を確認したいということなのだろう。だが、スキルブックとかいうのを見ただけで何がわかるというのだろうか?要は俺に何ができるかを伝えれば良いのだろうか?
「どうした!? 何故、黙っている!」
衛兵も苛立ち始めている。何かを言わなければならないという焦りから、とりあえず、自分にできること……持っている技術について言ってみることにした。
「料理ができます。剣技と呪文もそこそこ使えます」
「……そういうことじゃなくてな……」
俺の言葉に衛兵達は頭を抱える。
成る程、わざわざ技術ではなく、スキルと言っている意図を汲むべきだったか……。俺は、日の目を見ることのなかった子供の頃に考えていた技名を言うことにした。
「俺のスキルは『
キリッと良い顔で言ってみる。
「いい加減にしろ!早くスキルブックを出せ!」
遂に怒られた。俺は頭を下げ、自分の無知を正直に告白することにした。
「……申し訳ないんですが、スキルブックというものがまったくわからないのですが……」
「な……」
今度は衛兵達が
「スキルブックが……」
「ない……だと?」
俺は申し訳なさそうに頭を
「王都には入れそうにないので、別の街に行きます。その代わり、この封書を……」
「その剣は? 真剣か?」
衛兵が俺の言葉を遮り、俺が腰に下げた刀を指差す。
「え? ええ、真……剣……ですが……」
「そう。他の荷物も簡単に確認させてもらうよ」
衛兵達の目が冷たく光る。俺の荷物を開くと中身を無遠慮に取り出していく。
「これは何だ?」
衛兵が荷物から取り出したのは魔獣の爪だった。
「あ、それは街道沿いで魔獣を斬ったので、売れるかなあと思って採取したんですが……」
「これは……この大きさだと、おそらくA級魔獣の爪だな……ってことはコレもそうか」
そう言うと衛兵は魔獣の爪と魔獣の肉を俺の荷物と別にした。
「その剣もこちらに」
「この状況を説明して欲しいんですけど……」
俺は文句を言いながらも素直に刀を衛兵に渡す。衛兵は鞘から刀を抜くと刃を確認する。
「片刃だが確かに真剣だ」
その言葉にもう一人の衛兵が頷くと俺に顔を向ける。
「お前の名前は?」
「クロウ……クロウ=プラグブロックです……」
「ふむ。クロウ=プラグブロック! 『冒険上級』のスキルを持たないにも関わらず王都への進入を試みた件、『剣術中級』スキルなしでの真剣の所持・同行使及び『狩猟上級』スキルなしでのA級魔獣の狩猟。以上三点についての『資格外活動』でお前を捕縛する!」
言い終わるや否や衛兵は俺の腕を掴むと両手に手枷をはめてきた。
「へ?」
俺は状況を理解できずに間の抜けた声を出すことしかできなかった。
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