第19話 旅

「おじいちゃん、おはよう。今日は○○キャンプ場まで走る予定だよ。行ってきます。」


「おう、気を付けてな。」


和之かずゆきは電話を切って、今度はかけた。


貴生たかおか? 今日は○○キャンプ場までだそうだ。よろしく頼むぞ。」


和之は貴生の返事を待たず、電話を切った。


「ご苦労なことね。」


一美ひとみは和之の前にお茶を置いた。


「しょうがないだろ。GPSを付けられなかったんだから。」


和之は貴生の性格の良さは認めているが、能力についてはあまり信用していない。絶対に何度かは美生みおたちを見失うに決まっている。そう確信していた。しかし、さすがに美生にスマホのGPSで常にどこにいるか分かるようにさせてくれとは言えず、自分が毎朝美生たちの今日のルートや目的地を確認して、貴生に連絡しているのであった。


「そんなに心配なら、まだ高校生なんだからそもそもバイクの免許を取らせなければ良かったのよ。」


一美にばっさり切り捨てられて肩を落とした和之を見て、一美は慌てて付け加えた。


「美生は美生なりに色々考えているし、けいちゃんは頭の良い子だから大丈夫よ。」


さて、その頃。


美生たちの後を付いて行った貴生は悪戦苦闘していた。美生たちは苫小牧のホテルで一泊したので、フェリーのタイムラグは問題にならなかった。これは、もちろん和之が何だかんだ理屈を付けて、美生と佳が苫小牧で一泊するよう仕向けたからである。


「フェリーが苫小牧に着くのは午後2時だから食材を仕入れてキャンプ場で飯を作ったりすることを考えると全然走れないぞ。それに朝に出発した方がな、何かこうツーリングが始まるって感じがして気分が盛り上がるぞ。」


祖父の和之にそう言われて、美生は分かったような分からないような気分になったが、あまりに和之がしつこく勧めるのでそうすることにしたのだった。


朝、美生たちが出発するのを物陰で見届けてから貴生も出発したが、美生たちが見える位置にいると気付かれる可能性が高い。何より二人とも初心者なので走るのが遅く、後続の車は美生たちのオートバイは充分距離を取って追い越してくれるが、貴生の軽トラックはそうは行かないのでクラクションの嵐だった。


それで、美生たちのすぐ後ろを走るのは諦めて、時間を調整しながら30分位遅れて走るようにした。それでも美生たちが休憩したり昼食を食べているのに気付かず、追い抜いてしまったり見失ってしまったりで苦労している。


キャンプ場も同じキャンプ場だと、鉢合わせてしまう可能性が高い。近くに別のキャンプ場があれば良いが、そう都合の良いことは滅多にないので、近くの空き地で野宿することがほとんどだった。


バーナーで沸かしたお湯でコーヒーを飲みながら夜空の星を眺めて、貴生は呟いた。


「やっぱり北海道はいいよな。」


それでも貴生は久しぶりの北海道を楽しんでいたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る