第3話 オートバイ

美生と佳のおしゃべりは続く。


「ところで最近ご無沙汰しているが、おじいさんは元気かい?」

「あ〜。」


美生は歯切れが悪い。同居の祖父、村田むらた 和之かずゆきは、母の父つまり母方の祖父である。妻に先立たれ、長らく母と親子二人暮らしだったが、美生の父と母が結婚して、父はいわゆるマスオさんをしている訳だ。その祖父は美生が高校に入学した、この4月に嘱託で65歳まで勤めた会社を退職した。希望すればもっと働けたらしいが


「もうやだ。疲れた。」


と言って、年金生活となった。それはいいのだが、ほとんど外出もせず、ぼーっとテレビを見ているか、昼寝をしているかで、どこか具合が悪いのでは? と美生の母は心配している。


実際、この1、2年でめっきり老け込んでしまい、かつて子どもの美生をおんぶして駆け回って遊んでくれた面影もない。


この祖父がオートバイが趣味で、庭に置いてあるスチール物置のガレージに10台ほどのオートバイがびっちり詰め込まれている。美生が小学生位までの頃は、よく後ろに乗せてもらってあちこち連れて行ってもらったものだ。


特に美生が小学生の時の夏休みは、毎年、父と祖父と一緒に北海道にオートバイでキャンプツーリングに行って、この時の楽しい思い出が美生を北海道に駆り立てるのかもしれない。


祖父が所有しているというオートバイは全てイタリアの旧くて小さなオートバイばかりで、美生から見るとバイクというよりは、いかにもオートバイといった佇まいなのであった。メーカーもばらばらで、美生にも良くわからない。


美生本人はオートバイの細かいところにはあまり興味がなく単にツーリングの道具としてしか見ていないのであった




「美生のおじいさんって本当に面白い人だよね。子どもの頃、初めて美生の家に遊びに行った時にさ、リビングにバイクが置いてあって、私がすごーい、カッコいいって褒めちぎったもんだから、おじいさん機嫌良くして、私をバイクに乗せてエンジンかけて煙で家の中が真っ白になってさ。あれは未だに忘れられないぜ。」


佳は背中を丸めて、くっくっくと笑った。


そうなのだ。雨が降っていたので庭に出るサッシを開けてバイクのマフラーを外にちょっと出してエンジンをかけたのだが、思ったより雨が強く煙が逆流して家の中が真っ白になってしまったのだった。


最も2階にいた美生の母が、エンジンの音と煙にびっくりして、すっ飛んで来て、即座にエンジンは止めさせられた。佳が帰った後、美生と祖父はこっぴどく叱られて、今後家の中にバイクを置くことはまかりならんということになった。


それで庭にスチール物置のガレージを置くことになったのだが、バイクを置く場所ができたことで今度はバイクの台数が激増してしまい、今となっては失敗したと美生の母はぼやいている。


だが、最近、祖父はほとんどオートバイには乗らず、たまに庭でエンジンをかける位なのでまともに走るオートバイが何台あるか、美生にもわからない。まあ、10台近くあるのだから美生と佳が乗る分はあるだろう。


家に帰ったら祖父に確認しなければと思う美生なのでありました。


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