第13話 あなた、誰?
「ちょっと!
『なんじゃ? どうしたのじゃ?』
「役所言葉って話す時だけじゃん! 何でそういう大切な事言ってくれないのよ! 怒られちゃったじゃないの!!」
パソコンの画面を馬琴に見せて八つ当たりする。
『なんじゃそんな事か、ワシのこの手では文字は書けんからのぉ、気にした事もなかったわ』
「もぉ!」
馬琴の頭をグリグリしていると、メールを読んでいた馬琴が驚いた様な声を上げる。
『むむぅっ!?』
「どうしたの?」
『
「そう書いてあるわね」
みどりの愛読書は『南総里見八犬伝』とはいえ、時代小説全般を好きという訳ではないので、柳生と言えば何となく剣の達人というイメージがあるだけだ。
「馬琴ちゃん、その柳生さんの事知ってるの?」
『おぬし……、柳生といえば藩の汚れ仕事を引き受けておる
「いいから、その
お説教を始めようとする馬琴を制して、話を続けさせる。
『
「石舟斎!? ……も、もちろん知ってるわよ」
『怪しいもんじゃがまぁよかろう、
「十兵衛さんなら聞いた事あるわね、どうしてその十兵衛さんじゃなくて但馬さんが来るのかしら」
『十兵衛は
「そ、そうなんだ」
みどりも行政側の人間で政治家の権力争いに近い場所に居るとはいえ、この一大事においてまでその様な行動原理で動く人間の事は理解しがたい。
「面倒な事にならなきゃいいけどなぁ……」
心配そうに呟くみどりに、馬琴がおざなりな気休めの言葉をかける。
『まぁ、但馬は
「そうだといいんだけど……ん?」
みどりの返事を待たずに馬琴はスヤスヤと眠りについていた。
**********
翌朝、猫江と同じホストクラブで働いている
猫江には『話したいなら店に来い』と言われたが、テーブルチャージと指名料だけで一万円も取られる店にそう何度も行けくのは気が引ける。
「八房ちゃん、来てくれるかなぁ」
『要らぬ心配のようじゃぞ、ほれ、あそこ』
馬琴の目線の先には、真っ白な丸いモフモフが穏やかな朝日を受けて公園のベンチを占領している。
みどりは八房の隣に腰かけると、挨拶と共に背中を撫でまわした。
「おはよう八房ちゃん! ちょっとお願いがあるんだけどさぁ」
目線を馬琴に送ると、馬琴と八房はにゃあにゃあと話を始める。
話がまとまったのか、八房は立ち上がって大きく伸びをすると、大通公園を西に向かって歩き始めた。
途中で北一条・宮の沢通りに入って更に西に進み、コンビニの角で北に向かうと、決して豪華とは言えないアパートの前で八房が立ち止まる。
先日の
(ああいう人たちって、意外と堅実な暮らしをしてるものなのかしら?)
どうでもいい感想を抱いていると、馬琴と八房がにゃあにゃあとお喋りをしている。
『猫江が住んどるのは205号室のようじゃぞ』
「205ね」
みどりは勾配が急な階段で二階に上り、205号室の前でインターホンを鳴らす。
「
部屋の中からゴソゴソと音がし、玄関の扉が開く。
中から顔を覗かせた若いすっぴんの女が、迷惑そうに口を開いた。
「あんた誰?」
「あ……あなたこそ誰なのよ!?」
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