第12話(改) 役所言葉にご用心
思いもよらぬ疑いをかけられた
「バカな、違うよ! んな訳ないでしょ、盗賊なんてやんないよ!」
「じゃあどうして
なおも疑いの眼差しを向けるみどりに、わざとらしく人差し指を立てながら得意げに種明かしを始める。
「いいか、人間は無意識のうちに感情を
「私、太ってません! ちゃんとダイエットしてるし!!」
「それはどうでもいい」
「……」
「で、俺はあの店に入店して研修期間中に他の人の接客を観察してたんだけど、あの人だけは一度も感情のサインを見せなかった。
そんな事が出来るのは高度な訓練を受けたメンタルコントロールの天才か、サイコパスの中でも飛び抜けて病的な奴だけ。
もし、あの店に大盗賊が居るならShinさん以外にあり得ない」
「じゃあ、あなたでも犬江の心は読めないの?」
「簡単じゃないだろうな……」
猫江はそう言うと、
「あ、あの、それでも、私たち猫江さんに力になって欲しいんです! 首飾りを奪い返すか、それが難しいなら一度わたしと一緒に東京藩に戻って作戦を考えて……」
猫江はみどりの言葉も耳に入っていない様にブツブツと呟いている。
「そうか、Shinさんが犬江親兵衛……」
「ちょっと、猫江さん? 聞いてます?」
「あぁ、ごめん、何だっけ?」
「ですから、首飾りを奪い返すか、わたしと一緒に東京藩に戻って……」
「ごめん、滝沢ちゃん、俺パスだわ!」
「はぁあ? パス!?」
みどりは耳を疑った。
「え? パスって、八猫士は東京藩の
「それは先代までの話だよ! 俺は
「そ、それはそうですけど……」
「それでなくてもShinさんは色々ヤバい噂聞いてるし、それがあの
「そ、それはそうですけど、報酬については上司と相談してみますから、東京藩に戻ってお話だけでも」
「やだね」
「そんなぁ」
情けない声を出すみどりの前で、猫江は何かを思い出す様に視線を落として呟く。
「今は危険な事には首を突っ込めない……」
「え?」
「いや、こっちの話! とにかく俺はパスだ、だいたい東京藩なら他にも沢山ヤバイ仕事する人居るでしょ、
そう言うと、猫江は伝票を引っつかんで席を立った。
「あ!ちょっと待って!」
立ち上がろうとするみどりの肩を押さえつける。
「もう話は終わり! ここは俺が払っとくから、まだ話し足りないならまたお店に来てよ! お客さんとしてサービスするからさ!」
猫江は非情なセリフをウインクで和らげて去って行った。
みどりは、去って行く猫江の背中にしばらくの間
「もう! 馬琴ちゃんどうして一緒に説得してくれなかったのよ!」
『説得はお主の役目じゃろう、ワシの役目は兄弟猫たちを探し出す事じゃ』
「そうだけどさぁ、馬琴ちゃん
ふくれっ面のみどりを気に留めず、馬琴は何やら考え事をする様に、しきりに前足で顔を
「何とか言いなさいよ!」
『ふむ、猫江のヤツ何か妙じゃったのぉ』
「妙って?」
『分からんが……何か妙じゃ! まぁ良い! お主も一度だけで諦めてしまうつもりではあるまい、今日の所は一旦帰るぞ!』
そう言うと自分からキャリーバッグに入ってしまう。
「もぉっ! 勝手に決めないでよ!」
みどりは鼻息を荒げて
馬琴の言う妙な何かにかけてみる事にして、ファミレスを後にした。
ホテルの部屋に戻ると、とりあえずパソコンを立ち上げてメールチェックをする。
この時間に急ぎの要件が入っていてもどうしようもないが、社会人の習性みたいなものだ。
メールソフトを立ち上げると、着信の通知があった。送信者は山下だ。
(どうかこれ以上変な事に巻き込まれませんように!)
願いながら開いたメールは予想もしない内容だった。
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件名:【重要】猫
本文:お疲れ様です。
標記の件ですが、北海藩に八犬士の一人が
宿は別な所を取るそうですし、こちらの猫探しとは別行動になりますが、お互い協力できる部分は協力する様にとの殿よりのご命令ですので、藩支給の滝沢の携帯番号を先方にお知らせしてあります。
連絡があるかもしれませんので、その際はよろしくお願いします。
P.S.先ほどのメールは何ですか? 業務のメールで悪ふざけはやめなさい。
東京藩総務局文書課:山下
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(文章は役所言葉じゃないの??)
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