第11話(改) お断りします!
『
キャリーバッグの
見つめる視線の先では、華やかなコールに満足そうな笑みを浮かべた
『とりあえず店を出るのじゃ、顔を見られてはおらぬの?』
「た、多分」
みどりは顔を隠すように
席についてドリンクバーを注文すると、ようやく一息ついた。
「あ~、びっくりしたぁ~」
『本当じゃの、まさか犬江の奴が
「本当だよ! 猫江さん知ってるのかな?」
『さあのぉ、よもや盗賊団の首領が堂々とホストなどやっておるとも思わんだろうし、分かっておったとしても【
「そうだよね……、でもさ! 近くに居るなら案外
気楽な感想を述べるみどりに、馬琴がため息を漏らす。
『はぁ……、おぬし、犬江の通り名を聞いたであろう?』
「通り名?」
確か
他の八犬士たちの通り名は、犬川を除いてそれぞれ【◯◯の犬】と呼ばれていたので何となく特徴が想像できる。
犬川にしても【
だが、犬江の【天犬】は意味が分からない。
「確か【天犬】だったよね?どう言う意味なの?」
『その名の通りじゃ、まさしく天才なのじゃよ、刀を持てば達人をも斬り伏せ、盗みに入ればどんな
(八犬士一の天才……)
それはまさしくみどりの愛読書・南総里見八犬伝の世界そのものだ。
全てに優れた犬江親兵衛は、物語後半の主人公と言っても過言ではない。
そんな相手に、あの軽薄そうな
みどりは、脳裏に浮かぶ先程のヤワな笑顔を打ち消す様に首を振った。
「で、でも、猫江さんも強いんでしょ? 霊能力者だし」
『霊能力者!? お主そんな事信じておったのか?』
「だ、だって、お客さんのインコの話とか私のお父さんの話も……、あんなの霊能力でもないと分かりっこないじゃない!」
『そんなものある訳なかろう! あれは観察力と洞察力じゃ!』
「え!? それじゃ霊能力詐欺じゃないの!」
『まぁ、そう言ってしまうと身も蓋もないが……、あ奴は身なりや振る舞いから仮説を立て、話しかけながらそれに対する僅かな視線や表情筋の動きを観察して真実に誘導するんじゃ。
お主、あ奴と話をした時、手を握られておっただろ、脈拍や発汗を探ればほぼ完全に相手の【心】を読むことができるそうじゃ』
「ほぼ完全に心を読むって……」
(それじゃ、霊能力みたいなものじゃないの?)
みどりが東京で遭遇した犬塚信乃や犬川壮助の様な分かりやすい強さではないが、別な種類の天才と言えよう。
『達人同士であるほど技量に差が付きにくくなり【心】の要素が勝敗を分ける要因となる。
あ奴は相手の【心】を読んでそれを逆手に相手の心を乱し、戦闘において優位に立つ、そういう類の天才じゃな……。
じゃが、それは十年前の話じゃ! あやつ、てっきり修行に精を出しておるものと思うておったが、あの様な所で
「ちょ、馬琴ちゃん、淫をひさぐとか変な言い方するのやめてよ、役所言葉はこっちが恥ずかしくなるよ」
みどりは頬を赤らめながら周囲を見回してみたが、幸い店内は空いていて、数少ない客も自分たちのおしゃべりに夢中でみどりの事など気にもかけていない。
店内の時計を見ると時計の針は既に十二時を回っていた。
(ああいうお店って普段は何時までやってるんだろう? 平日だから明け方までやってる事は無いだろうけど、あと一~二時間かなぁ?)
胃袋の要求に負けたみどりがポテトを頼んで胃を落ち着けていると、
「あれ?滝沢ちゃん、こんな時間にそんなの食べたら太っちゃうよ!」
(猫江め! 人の気も知らないで呑気な事言いやがってぇ!)
みどりは怒りを押し殺しながらも、猫江に席を進める。
「猫江さん、何か食べますか?」
「いや、いいよー! 太っちゃうから!」
「そうですか、なら、早速話を進めさせてもらいますね……」
みどりは、怒りに顔を引きつらせながらこれまでの
「へぇ〜、それで滝沢ちゃんは医療費の為だけにわざわざこんな所まで来たの?」
「はい、そうですよ?」
「絶対嘘だね、君、嘘吐く時分かりやすい癖があるの気付いてる?」
「知りませんよ、そんな事!! それよりも、その八犬士の一人・犬江親兵衛が猫江さんの働いてる店に居るんですよ!」
それまで薄ら笑いを浮かべていた猫江が眉間にシワを寄せるうめく様に呟く。
「犬江親兵衛がうちの店に? Shinさんが犬江か?」
「え!?そうですけどどうしてそれを……、まさかあなた犬江の仲間?」
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