第9話(改) 潜入! クラブ・クリーン!
「ね、猫江さんが、No.2ホストの
『南総里見八犬伝』の世界では
(こんなの悪い冗談よね?)
みどりは穴が開くほど看板の写真を見つめたが、その写真は
『入ってみるしかなかろう、ワシは大人しくしておくゆえ、後は任せる』
「そんなぁ」
『情けない声出しとらんで早ういかんか!』
馬琴に叱られて、みどりはなけなしの勇気を振り絞ってエレベーターに乗り込んだ。
(大丈夫、ボラれても藩が払ってくれるから、大丈夫)
再び開いたエレベーターの扉の先は、至る所に埋め込まれた間接照明が薄暗い店内を怪しく照らす、みどりにとっては異次元の世界だった。
「いらっしゃいませ、お客様ご案内!!」
「いらっしゃいませぇい!!」
強引な案内で無理やり席に着かされたみどりは、思い切ってボーイに声をかける。
「あ、あの!
「
「ご指名で!!」
有無を言わさず押し切ると、おしぼりで手を拭きながら周囲を見回す。
みどりと同い年位の娘から、トウの立ったおばさんまで、派手な身なりの女性が女王様の様に男たちを
「これ!あまりキョロキョロするでない!」
馬琴に小声で
「だって、こんな所来るの初めてなのよ」
そう言うと視線を泳がせながら、背後の客達とホストの話し声に聞き耳を立てる。
「ねぇねぇ、
「え〜、霊能力ぅ?
どうやら背後のテーブルにはお目当ての
(
みどりは心強さと
「あ〜!渚ちゃん
急にまじまじと見つめられて照れる渚の手の甲を、親指で円を描く様に撫でながら、猫江は
「渚ちゃんは……ペットを飼ってるね……、とてもかわいい……猫だ!」
「当たり~!凄いかわいいの!!! でもさぁ、猫飼ってる人なんていっぱいいるじゃん! これが霊視?」
渚の疑いの視線を受け流すと、猫江を軽く目を閉じて言葉を続ける。
「ちょっと待って、猫だけじゃない、他に居る……いや、居た」
「えっ!?」
ハッとした様に反論しかけた渚を
「君にとって……、とても大切な存在……いつも隣に居た……犬、いや、もっとか弱い存在、鳥だ! インコだね?」
「そ、そんなまさか……」
渚は
「それを亡くした……、君のせいで」
「あぁぁぁ! 私がもっとちゃんと見ておかなかったからあぁぁぁ!」
猫江の膝の上に崩れ落ちる様に倒れ込み
「そのインコの名前は?」
「……チャッピー」
「そう……チャッピー、そうか君がチャッピーか」
「え!?」
上体を起こして涙目で仰ぎ見る渚の肩の辺りに視線を送りながら、猫江は甘い声で
「そうか、チャッピー、君も謝りたかったんだね? カゴから勝手に出て行ってしまった事」
「嘘!チャッピーがここに!?」
「そうだよ、チャッピーはずっと君に自分を責めるのをやめる様に伝えたかったんだ、チャッピーは君のせいだなんて思っていない、むしろ、君と暮らせた事のお礼を伝えたがっている」
「あぁ、チャッピー! 私こそありがとう!」
「ほら、チャッピーはとても嬉しそうにしているよ、あぁ、そうか、もう行くのか、さようなら、チャッピー」
猫江は号泣している渚の頭を撫でながら、もう片方の手で控えめに手を振ってチャッピーに別れを告げる。
「君を悲しませている事が心残りだったんだろうね、でも、とても幸せそうに飛び立って行ったよ」
「ああぁぁぁ〜!」
猫江の胸に顔を埋めて声にならない嗚咽を漏らす渚の頭を優しく撫でながら、猫江は満足そうな笑みを浮かべた。
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