第5話 幻惑の犬・犬塚信乃!
「貴様!
「盗賊にそれを聞いてどうするのよ? おバカさんねぇ」
「きっ貴様ぁ!!」
「犬川!
「チッ、うっせぇな、分かってんよ! でもよぉ、中池以外ならいいんだろ?」
犬川の視線が山下を捉え、恐怖が張り付いた山下の顔が絶望に歪む。
「ま、待て、話せば分かる」
「へっ、俺はケダモノなんだろう? ケダモノと話すのか?」
「あ、あれは殿が言った事だ!」
「知った事かっ!」
血に飢えた獣の様な
虚を突かれて飛びのいた犬川の前に、数人の黒ずくめの男達が音もなく現れ、抜刀して構えている。
「おぉっ、
「はっ、殿! お怪我はございませぬか?」
「おぉよ! 半蔵! その者どもひっ捕らえい!!」
「はっ!!」
思わぬ援軍に生気を取り戻した中池の号令で、黒ずくめの集団が犬川を取り囲む。
犬塚の方に目をやると、そちらも数人の黒ずくめの男に取り囲まれていた。
「犬塚ぁ、こいつらもやっちまっていいんだろ?」
「待て、犬川、こいつらは
目の前の刃も気にせずに呑気ともいえる会話をする二人に、半蔵が苛立ちの言葉を投げる。
「うぬら、逃げ切れると思うておるのか?」
「お前ら、捕らえられると思ってるのか?」
バカにしたような犬川の返答に、半蔵が一歩間を詰めた瞬間。
「あっ!」
何かに気付いた半蔵が慌てて鼻と口を手で覆って犬川の前から飛びのき、犬塚の方を睨みつける。
半蔵の視線の先では、犬塚がゆっくりと頭上で鞭を回転させ、それと共に知事室がシャネルの№5の様な
(いい香り……)
みどりは、
音のした方を見ると、犬塚信乃と犬川壮助が窓枠の上に立って、こちらに不敵な笑みを浮かべていた。
もちろん、犬塚の手には宝刀・村雨が握られたままだ。
(幻惑の犬……)
犬塚の通り名を思い出し
「じゃあな、殿さん」
その場に居た者たちは、しばらくの間
「あっ! 彼奴ら、村雨を!」
慌てふためく山下に中池が声をかける。
「良いのじゃ、山下、そう言えばそなたには申しておらんかったのぉ」
「はい?」
「あそこに飾っておった村雨は偽物じゃ、本物は
命乞いの
「殿……」
「おぉ、半蔵、よくぞ来てくれた! 彼奴らよもやここにまで侵入してくるとは思わなんだぞ、服部組は
「殿……、実はその事でお耳に入れたき事が」
半蔵は、部外者感を丸出しにへたり込んでいるみどりに目を向けて口ごもる。
「そ奴はもはや当事者じゃ、気にするでない、申してみよ」
「はっ! 実は猫塚信乃めが
「な、な、なんじゃと!?」
中池は力なくその場に崩れ落ちた。
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