第7話 過去

 幼い時から湊には一人の親友がいた。蒼汰(そうた)といった。明るく、社交的で、湊とはしょっちゅう放課後に公園で遊んだりしていた。中学の頃はゲームセンターやファミレスでいっしょに過ごすこともしばしばであった。当時二人には約束ともいえる一つの共通の目標があった。それは二人一緒に、県で一番の学校に入学することであった。蒼汰は塾や英才教育を受けてきていた為、それなりに頭がよく学校の定期テストでも一桁の順位だった。だが、当時の湊は思春期もあり色々定まらず不安定だった。テストどころか授業もあ集中して受けるけることができなかった。

だから一緒に過ごすうちに二人の差は広がっていってしまったのだ。3月となり蒼汰は受験に受かった。湊は落ちて滑り止めであった私立高校に行った。湊は約束を果たせなかった辛さと不甲斐なさを蒼汰に押し付けてしまった。今までいざこざ一つなかった二人だが、初めて関係にヒビが入った。そして喧嘩の後悔と仲直りしたい感情とを引きずりながら親友のいない高校生活を過ごしていた。高校生になってから6か月ほどたった三日前の火曜日、季節外れのコンクリートが溶けそうなほどの熱い日に絶望は訪れた。蒼汰は不慮の事故にあってもう二度と姿を現すことはなかった。—  

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