第5話 シチュー

 どれだけ時間がたっただろうか。目をゆっくりと開ける。うっとりさせるようなよい香りに遅れて、木の器に入ったシチューが目に入る。湯気が舞っている。「ほら!早く食べないと冷めちゃうじゃない。」慌てて起き上がり、湊は器と同じような色をした木のスプーンを掴んだ。鮮やかなオレンジをした人参とルーのコントラストが食欲をそそる。湊はそのクリーム色を掬うとぱくり。湊の頬に河が流れる。その河に今までのような悲しみの色は全くなく、何とも透明であった。その一口があの出来事があってから三日、初めて喉を通った暖かい食事だった。三日間、なんども食べ物を口にしたがほとんど戻してしまっていたのだった。河は流れ続けた。「また泣いたら君の素敵な顔が台無しになっちゃうじゃん…」湊はスプーンを握りしめただ。柔らかな白が湊の頭をなでる。はっと思い出したかのように湊はシチューを再び口にする——

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