第4話 あたたかさに包まれて
湊は小さな声で「お邪魔します」と言ってほのかに香る芳香剤を感じながら木の温かさを足で捉えた。暖色系の色合いで揃えられた部屋は湊の心を安心させるようであった。六花は羽織っていたカーディガンを手早くハンガーに掛けると「学ラン脱ぎなよ」とせかした。湊はもたもたしながら金色に光るボタンをはずしていく。「落ち着いたらソファに座ってて」と今さっき目の前にいたはずの六花は既にエプロン姿で、キッチンカウンター越しに優しく微笑む。湊は腰を下ろすとともに不思議な感覚に包まれた。水の流れる音、リズミカルになる包丁の音、何かがグツグツと煮える音。なんだか曲みたいだなぁなんて考えているとふと、テレビ台にあった一枚の写真が目についた。印象はだいぶ違うが、六花だというのはすぐわかった。今ではセミロングボブの髪だが、写真の中では肩より下まで長く、シャンパン色のふちの丸眼鏡をしている。湊はこっちはこっちでイイななんて思いながらも、再び悲しみに頭を悩ませた。自分への不甲斐なさと後悔の念が押し寄せて視界が眩む。
度重なるフラッシュバックで疲労も限界であった。
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