第109話 神話。

 なんだかあまり流行ってない教会? そんなものがあるのかどうかわからないけどちょっとボロっとした感じの建物で。


 街の周囲の建物や床、というか地面に敷き詰められているのが白い煉瓦であるのにも関わらず、ここだけ赤煉瓦でできている。


 明らかに周囲の景色とは馴染まない、そんな建築だった。



 地球にあった教会のように屋根の上には何故か十字架があり、窓は色とりどりのステンドグラス。


 ふむふむむ。っていうかここの宗教は十字架関係あるの? そんな風に不思議に思い。



 っていうか先日サーラ時代の夢を見た後のあたしは前世の藤井瑠璃だったあたしをかなり思い出していた。


 だからといってそれは記憶がそう示しているだけであたし自身がレティーナだっていう自我まで変わってしまったわけじゃないけれど。


 うん。それでも。


 あたしの根源に日本人だった瑠璃って自我もあったんだなって。それも、嫌、じゃ無い。


 そんな風にも思えて。


 人の心って、ほんと不思議。


 あたしはずっと自分の中が空っぽだって思ってた。でも。


 実はあたしの中にはこんなにも沢山の記憶と、人生と、感情が詰まってたんだって、そうおもうと。


 なんだかすごく嬉しく思えるの。


 ふふ。


 ほんと不思議で嬉しい。




 ギイっと大きな扉を開けると、中には広い講堂が見える。


 ベンチが並んだ一番奥にあるのは神様の描かれた壁画?


 お邪魔しますーっと一声だけかけて中に入るとバタンと扉が閉まった。


 はう! って一瞬ビクってしたけどまあ風のせいかなぁと結論づけてそのまま奥に向かって歩く。


 誰も居ないその教会の一番奥祭壇の横の壁に描かれていたのは……。


 神話、だった。



 言葉は最小限に。


 殆どが彫刻や絵で表現されているけれどそれは。



 遥かな過去。


 この地は未曾有の大災害に見舞われた。


 生きとし生けるものの大半は死滅し、生き残ったものは狭く暗い地下深くで耐え忍ぶ。


 そして。


 奇跡は起きた。


 荒廃したこの地に降り立った神々。


 再びこの地に人を生き物を増やし繁栄させようと尽力するその姿。


 そしてこの地が再び生命が溢れる世界になった後。


 多くの神々がその姿をお隠しになった。


 残った十二神。


 最高神デウス。


 そして、その神の使い。使徒の姿。


 最後に。


 白銀の鎧。額に白銀のサークレットをつけ手には漆黒に鈍く光るロングソードを持った勇者の姿が描かれて。


 その物語が終わっていた。



 あたしはその壁画に見惚れ、しばらくそこに立ち尽くしていた。

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