第107話 落ちていくあたし。

 え?


 足元からストン! と落ちる感覚。


 嘘! ちょっと待って!


 そう思ったけどもうどうやら遅かった。


 光がシャワーのように細かく流れていくそんな軌跡。光る線がいくつもいくつも流れていくそんな中を落ちていくあたし。


 半分諦めに近い感情のまま、その幻想的な光景を眺めていた。



 そりゃあね?


 断るって選択肢は無かったよ。


 あんな風にお願いされてそれでも嫌だっていう事はあたしにはできなかったと思う。


 だけどさ、デートリンネ? これは無いよ。


 もう少し心の準備をさせてくれても良かったんじゃ無い?



 心の中で彼女に文句を言いつつ、それでもこの行き先が何処だかを考えてた。


 ほんと何処に連れて行かれるんだろう? 助けてって、どう言うことなの?


 光跡がうねるように流れるこの道をただひたすらに落ちる。最初はちょっと気持ち悪く感じたけどなれるとそうでもないな。


 時間、は、わからない。


 一瞬のようでもあるし、とても長い時間のようにも感じるそんな。






 どれくらいそうしていたんだろう。ふと気がつくと周囲の光が消えて、宇宙空間に放り出されたような感じになった。


 眼下に見えるのは……、地球?


 青く綺麗なその星は、あたしが多分前世で見た地球のイメージにそっくりで。


 そのままあたしはその青い地球に吸い込まれるように落ちて行った。恐怖、は無かった。燃え尽きちゃうって思ったけどそれもなくて。


 多分まだあたしは生き物として実体化していないのだろう。精神だけがそこに有る。そんな気がしていた。



 雲を抜け、地上が見える。


 って、あれ、日本列島?


 まさかあたしほんとに地球に帰って来たんだろうか?


 そのまま関東平野に向かって落ちていくあたし。


 っていうかこれってもしかして夢? だとしたら前世の世界に帰る夢でも見てるってこと?


 でも……。


 落ちて行くに従ってどうやら違うって思えてきた。


 地上の形は確かに日本だったし落ちてる先も関東平野のそれだった。なんならもうじき東京上空だ。


 でも、違う。


 此処にはビルも無ければ高速道路も無い。コンクリートの街並みは皆無で殆どの土地が緑の木々に覆われている。


 割と小さな街並み、円形の城塞都市が幾つか見える。それが全て。



 ふわふわとそんな城塞都市の一つに降り立った時、ちょうど太陽が沈むところだった。


 西の空があかねいろに染まり、上空が紫に変わる。月は、まだ見えないか。でも。


 白いレンガの建物が赤く色づき、道ゆく人の足が速くなる、そんな夕方だというのはわかった。


 文化的にはレティーナのあたしが居た世界とあまり変わらない。少なくとも前世の地球の様なあんな産業はこの世界には無さそう、だった。

 

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