第19話 聖都に降る魔石の雪。

 空を覆うのは魔獣? 漆黒の霧の中大小様々な魔獣が空を覆うように集まっていた。


「気がつかなかった……」


 いつもならとっくに察知していただろうに、怒りでまわりが見えなくなっていた?


「しかし、尋常な数じゃないぞこれは」


 カイヤがあたしを庇うように抱きしめる。


 魔獣はどんどんとその数を増していった。空だけでなく聖都の城壁の外にも地上を埋め尽くすかのように集まっているのを感じる。


 こんな数の魔獣が襲ってきたら……。





 王宮からペガサス騎士団が飛び立った。百騎ほどの白銀の騎士団が聖獣ペガサスに騎乗し魔獣に向かって飛ぶ。


 たぶん地上は地上で大勢の騎士様達が出動しているのだろう。ここは聖都。魔と戦う戦力は揃っている筈、だけれども。


 流石にこの数は多すぎる。


 空中で魔獣と相対し魔法が飛び交うのが見える。強力な炎の塊が連続して放たれ、そして弾ける魔獣達。


 続いて氷の刃、風の刃。何体もの魔獣が切り裂かれ降り注ぐ魔石。雹のように勢いよく降りガツンと地上に当たり砕け散る。


 戦闘開始直後は圧倒的に押しているように見えた白銀騎士団だったけれど、そのうちにその魔獣の量に押され始めた。


 倒しても倒しても押し寄せる物量に、騎士団の統率にも乱れが見え。



「まずいな……」


 そうカイヤが呟くのが聞こえた。


 うん。このままじゃ、時間の問題かもしれない。


 なんとかしないと……。



「魔王様は何処だ!」


 騎士団の乱れの隙をついて何体かの魔獣が王宮へと迫ってきた。


 そのうちの一体? が、こちら、あたし達の方に向かって来る?



 ぎゅん!


 と、あたし達の目の前に降り立ったそれ、は、キメラ? グリフォン? そんな魔獣。


 獅子の体に鷲の翼、頭はやっぱり鷲で尻尾は鞭のようにシナる蛇。


 そんな怪物が目の前に現れた。




 身構えるカイヤ。


 あたしもいつ攻撃が来てもいなせるよう、目の前に集中する。


「なんだ。魔王様の気を感じて来てみれば。レヴィアの血族か?」


 そうこちらを一瞥して言い放つそれ。


「ならわからないでも無い。俺はグリフォン。魔王様の片腕だ。お前達も魔王様の血族なら手を貸せ! 魔王バルカ様を蘇らせるのだ!」


 え? 何?


 こいつ、なんて言った?


「誰がお前なんかに手を貸すか! ここから立ち去れ! 魔よ!」


「ほう。威勢の良い猫だな。だが、手を貸さないと言うならお前達は邪魔だ! ここで喰ってやる!」


 グリフォンがその尻尾を鞭のようにしならせてこちらに飛ばす。バシン! と腕で受けたカイヤ。そのままその尻尾を持って空中に投げ飛ばし、そしてすかさず後を追った。


 そのまま空中で闘いを繰り広げるカイヤとグリフォン。互いに譲らずぶつかり合う。


 でも。あいつからは通常の魔獣とは違う匂いがする。あれは……。


 グランウッドの奥底から感じる魔王石の匂いと一緒。まさか、魔王石のカケラ?


 大聖女様から、絶対に解いてはいけない封印だと、その封印を守る事こそ大聖女の使命なのだと聞かされていた魔王の眠る魔王石。


 過去、何度も封印されそして何度も蘇った魔王。そのチカラの源、魔王を構成するレイスそのものでもあるそれ、魔王石。


 その一部をあの魔獣が持っていると言うのだろうか?




 空にはまだ大量の魔獣が浮かぶ。騎士団も健闘してはいるのだろうけど多勢に無勢、完全に突破されるのも時間の問題。


 このままじゃ、ダメだ。


 うん。


 あたしがなんとかしなきゃ、だめ。




 大規模な聖魔法を使うにはカイヤの魔法結晶のチカラを借りなければ難しい。でも。


 今のカイヤにはそんな余裕は無い、かな。


 だから。ままよ!


 あたしだけでも。



 あたしは右手のドラゴンオプスニルを外して。


 そしてそれを胸にいだいて。魔法結晶の代わりにして祈る。


 そして。あたしの金色の髪がふわふわと逆立ち、全身から金色の粒子が湧き上がる。


 そのチカラ、マナを一気に解放し。


 大気の中、空気に溶かすように拡散する。




 その光のオーラは王宮を中心にカーテンの幕のようにひらひらと広がって、聖都全体へと広がった。


 それは人のレイスにはチカラを与え。魔に対してはそれを打ち砕く。


 あまりにも大量にあった魔と重なり触れ合ったところでそのあたしのマナの結界は光を生み。あたりを照らす。


 そのカーテンのような光の結界に触れた魔獣は崩壊し。


 残された魔石も砕け散り雪のように聖都に降り注いだ。




 キラキラと煌めいて降るその結晶を眺めながら。あたしの意識はゆっくりと遠のいていった。

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