第20話 紫の魔法結晶。
「レティーナ、大丈夫か?」
優しくそうあたしを抱きとめてくれる男性。のぼせたように倒れかけたあたしを助けてくれた?
「ああ。良かった気がついた。とりあえずこれを飲みなさい、回復薬だ」
なんとかうっすら目が開いたけど、声が出ない。マナが枯渇して全身が麻痺してる、かな。あたし。
口元に当てられた瓶からトロッとした液があたしの口内に入ってくる。
ちょっと苦くって。一瞬吐きそうになったけど我慢して飲み込んだ。
ああ。これ……。
マニの実を凝縮して薬草を混ぜて煮込んだお薬だ。大聖女様に作り方教えて貰ったっけ……。
身体の中からじわんとしてくる。麻痺して冷え切った身体がだんだんとあたたかくなって、指先や足先にも感覚が戻ってきた?
「ありがとうございます……」
あたしはなんとかそれだけを言うと、この男性の顔をじーっと見つめた。
っていうか誰だっけ? この人。
聖女宮にいた頃のあたしって、男の人とまともに会ったこともなければまともにおはなしした事もなかった筈?
「お礼を言うのはこちらだよレティーナ。よく生きていてくれた。そして、よく聖都を護ってくれた。君のおかげで魔獣の危機から皆が護られた」
そう言い、あたしの手をギュッと握る彼。
って、抱きとめられた状態で……。
はうあう。
あたしは急に恥ずかしくなって、
「ごめんなさいもう動けますから、手を離してもらってもいいですか……」
そう言ってなんとかその人の腕からのがれ、立ち上がった。一瞬クラッとしたけどなんとか踏みとどまって。
「あまり無理しない方がいい。回復したばかりなのだから」
そうあたしの肩を支えて優しく声をかけてくれる彼。
気がつけばあたりは雪が積もったかのように真っ白なふわふわの綿菓子みたいな状態のもので覆われている。
これ、みんな魔法石が砕けた物?
「魔が浄化されている。これらは全て魔法結晶化しているね。しかしこの状態だと長くは存在できないか。次第に揮発して大気に溶けるだろう」
あたしが周囲を見て不思議そうにしているのを気遣って、彼がそう話してくれた。
そっか。これはみんな溶けるのか。
ちょっともったいないような気もするな。
これだけのマナの結晶。集めて一つに出来れば良いのにな。
あたしがふっとそう思った時だった。
ひゅう
と、風が巻くように吹いたかと思うと、周囲の綿菓子のような白い結晶が巻き込まれて一塊になった。
雪だるまの作りかけのようにどんどんと大きな塊になったそれ、は。
そのままギュッと小さく凝縮され、あたしの手にポンとおさまった。
はう。どうして?
「今の、君がやったのかい? レティーナ?」
あたしが? ううん、あたしはそう思っただけ。何もチカラを使った覚えはない、んだけど、?
それでも。
手の中に収まったその魔法結晶は、紫色に光り輝いていた。
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