第9話 マニの実。

「あう。あたいやる気だけはあるつもりなんだけど……。まだ得意っていうのは無くって……」


 にゅう。


 まあ見た感じ背も低くてそんなに筋肉は無い感じ? 剣は一応下げてるけどさっきのブラッディベアの時も抜きすらしなかったところを見ても、きっと得意じゃないんだろう。


 魔力は初心者クラス。特に多くはないかな。


 これから伸び代がないともわからないけど時間かかる?


 うーん。どうしよっか。


「得意なことが有ればそれを伸ばしてあげれたらなぁって思ったんだけどね。じゃぁさ、なりたいジョブはなに?」


 剣士、とか、魔法使い、とか、回復系の道士とか。そういうの。


「すばしっこいのだけは自信あるんだよね。だからそういうのを生かせるといいんだけど」


 確かに小動物系な感じだし、すばしっこい、かぁ。ただ単に素早さだけの問題でもなくてはしっこい感じ? はするよね。


 そういうのは斥候とかには向いてそうだけど女の子にはちょっとね。


 もっといいの無いかな?


「とりあえず今度ゆっくり魔法の練習とかしてみる?」


「うん。ありがとう」


 あは。そうそうその笑顔。小動物系っていうかなんとなく猫っぽい笑顔。


 あたしはついつい彼女の頭に手を伸ばしてなでなですると、かーっと真っ赤になる彼女。


「はう。あたいは子供じゃないよ! っていうか同い年なのにお姉さんみたいなことしないでよ」


 そう、ふくれっつらになるティア。そういう顔もまた可愛いんだけど。


「あはは、ごめんね。じゃぁそろそろいこっか」






 場を片付けて出発。すぐに日が真上に来る。今日も暑くなりそうだ。


 さっと終わらせて帰るつもりだったけど今日は長引いちゃったしね。


 目的地の洞窟の入り口付近の壁の内側にはマニの実が自生していた。


 滋養強壮に効くマニの実は、薬草ほど沢山は取れないけど結構良い値で買い取って貰える。


 1シーズンの間、時期をずらして何度も実がなるから結局少しづつなんども採りにこなくっちゃね。


 ここはけっこう森の奥になるから初心者ティア一人じゃまだ来てなかったと思うけど。


 あたしはその真っ赤な実を一粒摘むとぽんと口に入れる。


 酸っぱくて、でもちょっと甘い。なんだか身体がポカポカしてくる。


「えー。もったいない」


 ティアがそう言うのをいいのいいのと指を振ってウインクして。


 もう一つつまんだそれをぽんと彼女の口に入れる。


「美味しいでしょう? 美味しいだけじゃ無くってこれ自分のマナも回復してくれるから。ほんと万能の実なんだよ」


 んーっとすっぱさに顔をクシャっとしたティア。


「あう、なんだか身体がジンジンしてくる」


「そーでしょー。これくらいご褒美があっても良いじゃない?」


 マニの実は保存が効かない。


 新鮮なうちが一番薬効が高いのだ。それに気をつけないとすぐ潰れちゃうからね。


 残りの数個を摘んで大事にしまう。柔らかい布で包んでレイスに収納したあたし。


「これ、あたしが持っていくね。潰しちゃったら意味ないから」


「うん。お願い」



 さあこれで今日のノルマは終わりだ。いつものようには行かなかったけどブラッディベアの魔石も手に入ったしまあいいかな。


 そう思って洞窟を出ようとした時だった。


 急速に近づいてくる魔の気配。



「危ない!」


 あたしはティアを抱いて洞窟の床に伏せる。


 ぶわんと風が吹いたかと思ったら、そこに魔獣、ケーブビードが現れた。

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