第7話 初めての。

「じゃぁあたしは行くけど、あなた一人で帰れる?」


「ば、ばかにしないで! そりゃあ助けて貰った事は感謝してるけど、あたいももう半年も冒険者してるんだから!」


「うん。それはわかってるんだけどね。たださ、ここの所早朝や夜更には魔物や魔獣、増えてるみたいなんだよね? さっきのブラッディベアだって、こんな森の入り口に出る魔獣じゃ無いはずなのに」


 え、っという顔をして固まる彼女。


 早朝に魔獣を見かけるのは嘘じゃない。あたしは何度かこっそり倒してるしね? まあブラッディベアは流石にこんな森の入り口には居なかったけど。


 あたしはそのまま畳み込むように続ける。


「あなた普段こんな朝早くから森に入らないでしょう? どうして今朝はこんな時間に森に来たの? っていうか、あたしを尾けてどうしようと思ったの?」


 その子の顔が一瞬で真っ赤になり、そして項垂れた。悔しそうにぎゅっと歯を食いしばって。


「あんたが薬草を大量に摘んでくるから……」


 と、ぼそっとした声が漏れる。


 はう? どういう事?


「薬草が、どうしたの?」


 と聞き直してみると、こちらをキッと睨んで、


「あたい達初級冒険者にとって薬草採集はご褒美みたいな飯の種だったんだ! それなのに、なんだよ今の買取価格! 以前の十分の一以下じゃないか! それもこれもあんたがあんな上等な薬草をあんなに大量に摘んでくるから! あたいらの薬草なんか雀の涙みたいな金額でしか買い取って貰えなくなったんだ!」


 あー。なるほど。


「そっか……。それは悪い事したね……」


「だからせめてあんたの跡を尾けて薬草の群生地を探ってやろうかと思ったのさ……」


 そうか。そういう事か。


 でもまいったな。薬草の群生地なんてあるわけないもの。


 そん場所があったなら、この子達もこんなに困ってないんだろうけど……。


「ねえ、あなた名前は?」


「え? あたい、ティア」


 あは。わりと素直?


「ひょっとして孤児院出身?」


「そうさ、この春で十五になって、冒険者になったんだ」


「そっか。あたしも孤児だったんだ。一緒だね」


「嘘だ! あんたみたいなの街で見たこともない! あたいにだってそれくらいわかるさ!」


「別の街から流れてきたんだもの。あたりまえだよ」


 ティア、ぽかんと口を開けて。


「そ、そっか。別の街からきたのかあんた。じゃああたいが見たことないのも道理だ。同い年、同じ孤児の新人って触れ込みだったのに見たこと無いから疑ってたんだあたい。どっかの金持ちの娘が道楽で冒険者やってみましたみたいなのかもって。それなのに……、って。嫉妬してたんだ、ごめんよ……」


 あうあう。またしょぼんと項垂れちゃったティア。お顔もまん丸で童顔だから、なんだか小動物系の可愛さがあるなこの子。


 根は素直そうだしね。どうしよっかな。


 このままこの子を返したとして、あたしが魔獣を倒したことを誰かに話したとしてもたぶん誰も信じない。


 証拠もないし気のせいだろうとか別の魔物と見間違えたのだろうとかそんな風に受けとられるだけだ。


 だから、そこはそこまで心配していない。


 でも。


 ここにこの子一人残して去るのもちょっとね。


 魔獣が増えてるのは嘘じゃない。今も少し離れた所にいくつも居るのがわかるし。


「ねえ。あたしはレティシア。見た通り一応魔法が使えるの。よかったら今日は一緒に行動しない? あたしパーティ組むの初めてだからそういうのよくわかってないけど、二人の方が心強いでしょ?」


「え? いいの……? あたいも実はまだパーティとか入った事無いんだ……。先輩たちにはまだ役に立たないからって入れて貰えなくって……」


 ふふ。ほんと素直だこの子。嫌いじゃないな、こういう子。


 あたしは右手を伸ばして彼女の手をとった。


「じゃぁ決まり。よろしくね」


 繋いだ手をぎゅっと握って。あたしは笑顔でそう言った。


 ティアも笑顔になって。


「うん。ありがとう」


 そう素直に笑った。

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