第6話 尾行する少女。
チュン チュン
小鳥の鳴く声で目覚めたあたし。
さっと起き上がってお手洗いに。
ここの宿はお部屋にはベッドと荷物棚があるだけでお手洗いとかは共同なので、なるべく早く皆が起きないうちに済ませるようにしてるあたし。
まあね。あんまり多くの人と知り合うと変なところから過去がバレるかもしれないし。
そういう意味でもあまり人目につかないよう気をつけている。
魔物退治がしたかったら何処かのパーティーに入れて貰うと良いのよと、そうマイアさんにも勧められたけどなかなかね?
補助魔法や聖魔法が使える人間は重宝されるからと、あたしの属性を知っている彼女は親切で勧めてくれるわけだけど。
あたしは、人見知りするたちだから、と、やんわり断った。
やっぱりまだ当分は過去を詮索されかねないような知り合いは作りたくないし。その分、一人で出来る仕事は限られるから薬草採集や木の実集めなんかのほんと子供でも出来る事しか基本していないわけだけどね。
実入はそこまで良くないけどそこはそれ。
こっそりと魔獣退治した時に手に入る魔石とかはそのうち換金しようと思ってちゃんと貯めてある。
三年我慢すれば、きっと一人で魔物退治しても不思議に思われないはず?
そうすれば少しずつ魔石を換金しても、不自然には思われないかもだしね。
そんなこんなで人より早めに街を出て森に入ったあたしだったのだけど。
今日はちょっと。
うーん。困ったな。
——ついてくるよね?
うん。まいちゃうのは簡単だけど、それも不自然だしね?
——魔力の大きさから言ったら、まだ子供っぽいね?
それなんだよねー。どうやらそれもまだ冒険者になったばっかりの子っぽいよね。
——何が目的かな?
うーん。それがわかれば対処のしようもあるんだけど……。
今朝街を出る時からずっとあたしの後をついてくる女の子がいる。
あたしとおんなじ初級冒険者っぽいんだけど名前とかは覚えてない。ギルドですれ違った事があるかな? 程度にしか知らない子。
速度を上げて姿を隠すのは簡単だけど、それだと不自然だ。
あたしはまだほんの初心者でむこうの方が少し先輩の筈だし、一応身を隠しながらついてきてるからばれてるとも思ってないっぽい。
どうしようかなこのままついて来られるとまずいなとか思案していると、付近に魔獣の気配を察知。
あたしの身体から発している聖魔法の気配に普段魔獣は警戒して近寄って来ないんだけどなとか思ってみたら、なんだか狙われてるのは後ろの子みたい……。どうしよう。
気がついて逃げてくれるといいんだけどな。そうしたらあたしがサクッと倒してあげるのに。
——まああの程度ならボクの出番もないよね。
うん。カイヤの力を借りるまでもない、かな?
しばらくそのまま歩いていたら我慢ができなくなったのか魔獣が木々の隙間から飛び出した。
後ろの子の目の前、だ。
きゃーと叫び声が聞こえるし。
もう、しょうがないなぁ。
あたしはその場で反転。振り向くと、そのまま魔獣のいる場所まで全速力で飛んだ。
幸い腰を抜かした彼女がブラッディベアに襲われる寸前?
っていうかブラッディベアなんてこんな所に現れないよね普通。なんで?
一応護身用に持ってる細身の剣でブラッディベアの豪腕を受け止める。
「あなた! 腰を抜かしてる暇があったらさっさと逃げて! もう、なんで女の子が一人歩きするのよ!」
そうその彼女に声をかけて。
ブラッディベア、右前足の鋭い爪であたしの剣を掴むとガシャンと音を立てて握りつぶした。
あらあら。やっぱりこんなナマクラじゃぁだめね。
それならしょうがないか。
あたしは右手のドラゴンオプスニルを掲げて念ずる。剣よ! この手に!
エメラルドグリーンの龍玉から光の粒子が吹き出したかと思うと、あたしの手には真新しいツルギが握られていた。
龍の意匠入ったそのツルギ。ドラゴンスレイヤー。
ツカだけになった左手の剣で辛うじてブラッディベアの右前足を抑えていたあたし、そのまま右手のドラゴンスレイヤーを横薙ぎに払う。
その剣はそのままブラッディベアの腹部を両断。
そして。
魔獣、ブラッディベアは大きめの黒い魔石を残して散った。うん。討伐完了っと。
倒した時に身体が残るのが魔物。倒したあと魔石を残して散って消え去るのが魔獣。生き物なのかもうすでに生き物ではなくなっているのかの違い、らしいけど。
このブラッディベアは元々は熊の魔物だったのかもだけど、すでに生物では無くなってるってことかな。
あたしとしてはこうして死体が残らない魔獣の方が倒した時が楽なので助かるけど。
「あ、あ、あ、あんんた、何者よ!」
あ〜あ。
助けてあげたのにあんた呼ばわりか。
こういう事があるからあんまり知り合いは増やしたくないし他の人と一緒に行動もしたくないんだよね。
っていうかこの子、怪我してる?
「ねえ、立てる?」
あたしはドラゴンスレイヤーを召還したあとの右手を伸ばして。
栗色の髪にまん丸な目。なんだか小動物系のそんな少女。ちょっと怯えてる、かな。
「ううん、立てない、かも。足挫いちゃってる……」
ふむ。ちょっと右足をさすって痛そうにしてる彼女。左足はすりむいただけ、か。
「ちょっと待ってて」
あたしはその伸ばした右手の掌を彼女に向けて。
そして。
祈った。
掌から金色の粒子がふきだし、その子の身体、特に足を中心に包む。
その光はゆっくりとその足を癒して。
もう、いいかな?
「これで立てるはず?」
あたしはもう一度彼女に向かって右手を伸ばした。
その彼女、今度はあたしの手を恐々としてではあったけどちゃんと取って。
そしてゆっくり立ち上がると、「ありがとう……」と呟くような小さな声で囁いた。
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