第5話 初級冒険者。
「はい。今日はこれだけでお願いします」
「あらあらレティシアちゃん、今日もたくさん取れたのね」
「えっへへー。あたし、薬草探すの得意なんです」
「じゃぁ、今日は10ギルね。あ、そうそう、あんまり森の奥には行かないでね。魔物も魔獣も多いからまだレティシアちゃんには早いから」
「ありがとうおねえさん。無理はしないから大丈夫です。それに、あたしにはこのカイヤもいるし」
「まぁまぁかわいいわねカイヤちゃん」
ギルドのお姉さん、マイアさんっていうんだけど彼女、カイヤの頭をもふもふっと撫でて。
「でもいくら可愛くて賢い子だって言ってもこんな小さい猫ちゃんだもの。危ない目にはあわせたくないでしょう?」
「はう」
「危ないと思ったら逃げるのよ。そのためのこのアウラの羽なんだから」
あたしの胸にかかってる真っ白な羽のペンダントを指差して。
「羽の部分を手にギュッと持って願えば、このギルドまで帰って来れるからね。慌てないでね」
まあでも、このアウラの羽は買えばお高いし……。そう言いかけて口籠った。
初級冒険者の適正試験に合格したら貰えるこの魔具アウラの羽。
一回こっきりだけど登録してある地点まで空間転移できるっていうしろもの。初級の子が危ない目にあって命を落とさないようにとの配慮らしい。
「ありがとうございますマイアおねえさん。気をつけます!」
一回使っちゃうと次は買わなくちゃいけないからなぁとか思ったけどそれは口に出しちゃいけないよねと思って、あたしはお礼だけ言ってその場を離れた。
今日はこのお金でおいしいものを食べよう。たまにはね?
そう思ってお気に入りの山猫亭っていうお食事どころのお店に向かったのだった。
コンラッドに到着してすぐあたしは冒険者ギルドの窓口を訪ねた。
通常孤児院は十五歳までしか居られない。あたしもたぶんあのまま孤児院に居たら十五で出なきゃいけなかったんだろうな。
十五になれば大人の仲間入りということで自立して働かなきゃいけないんだけどそんな孤児の子に人気があるのが「冒険者」っていう職業。
身の危険と引き換えにまだ年若くてもそれなりにお金を稼ぐことができる。商店の下働きにつくのにも身元保証人が必要なこのご時世で、なんの後ろ盾もなくとも着くことが出来る職業、それがこの「冒険者」なのだ。
一応適正を図る試験はあるけれど、孤児だって言えば普通にこの試験を受けさせてくれる。
わりと簡単に魔力があるかどうか身体能力的に基準を満たしているかどうかを測るだけのこの試験、あたしはもちろん一回でちゃんとパスした。
初級、汎級、上級、超級とある冒険者のランク。初級の人間が無事三年生き延びられたら汎級にあがり、そうした人は普通に「冒険者」とだけ呼ばれることになる。
上級や超級っていうのはもっと特別な実績があったりする人用?
あまり居ないらしいけど。
まあね、あたしもう十七歳だったけどその辺は嘘をついた。っていうか十五歳って言っても誰にも不思議に思われなくて。
どうせ童顔でお子様体形ですよと拗ねてみたけど背に腹は変えられない。
孤児の子が不自然に思われず冒険者になるのには十五歳って名乗っておいた方が無難だから。
十七歳だって言ったらじゃぁ今までどこで働いてたの? って聞かれるかもしれないしね?
まさか宮廷の聖女宮で聖女してましたなんて言えるわけないもの。
初級冒険者用の安宿もちゃんと斡旋してもらったしなんとかそこで暮らしながらこうして薬草集めとかしてるんだけどね。
まあ、薬草集めは実はちょこっとだけズルしてるけど、そこはそれ、他の人には迷惑かけてないし許してほしいな。
そんなこと考えながら歩いてたら山猫亭に到着だ。
うん。今日はオムライスでも頼むかな。玉子がいっぱいとろとろに掛かってておいしそうなの。
——ねえレティ。ボクのもね?
うん。わかってるって。ちゃんと美味しいお魚頼んであげるから。
——ありがとうレティ。大好きだよ!
あは。あたしも大好きよ。カイヤ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます