海の精霊1
ボン!
音を立てて錬成用の釜が爆発する。
浄化薬の錬成は、これで七度目の失敗だった。
「くそ……やっぱり難しいなあ」
わたしは独りごちる。わかってはいたけど、やっぱり今のわたしには難しい。
ううん、諦めちゃ駄目だ。なんとしても浄化薬を完成させないと。
次の挑戦を……
「あ、もう材料がない」
ミュウが持ってきてくれた虹色珊瑚が尽きてしまった。
「そういえば、ミュウはどこに行ったんだろう」
待ってて、と言い残して書庫を飛び出したけど。
「クロちゃんっ!」
「うひゃあああっ!」
いきなり背後から名前を呼ばれて、頓狂な声を上げてしまう。
……今の、ミュウだよね。ドキドキする胸を押さえながら振り返る。
はたして、そこにいたのは。
「お待たせっ!」
全身、擦り傷だらけのミュウだった。
「……って、どうしたのその怪我!」
「えへへ、ちょっと岩に挟まれそうになったりとか」
なんだそれは。この短い間に、どんな危険な目に遭って来てるの。
「とにかく、薬を……」
「クロちゃん、はいこれっ!」
「え?」
薬を用意しようとするわたしの眼前に、ミュウが袋を差し出してきた。
「これは?」
「綺麗な虹色珊瑚だよっ!」
「……綺麗な?」
袋を受け取って、中身を取り出す。
「わあ……」
たしかにそれは「綺麗な」虹色珊瑚だった。
最初にイメージしたような、虹色に光輝く珊瑚だ。
「もしかしてミュウ、これを採りに?」
「うんっ、クロちゃんの役に立ちたかったから」
「ミュウ……」
たしかに錬成の難易度は、素材の品質も影響してくる。
場合によるけど、基本的には高品質な素材を使うほど易しくなるのだ。
もしかしたら、これで浄化薬を完成させられるかもしれない。
「ありがとう、ミュウ」
「えへへ」
「とにかく、傷薬を塗らないと」
「ううん、薬は自分で塗るからクロちゃんは錬成をしてっ」
わたしの手から傷薬を取り、ミュウは言った。
「……わかった」
頷いて、八度目の挑戦を開始する。
「フワラ、力を貸して」
「ミー」
フワラの力で、水のない空間を作り出す。
そこに釜を置き、中に材料を入れて、いつもの手順で錬成を進めていく。
やがて肝心の工程に差し掛かった。
マナの制御。これがきっちりできないと、また爆発の繰り返しだ。
もう失敗はできない。するわけにはいかない。
ミュウが怪我をしてまで、材料を持ってきてくれたんだ。
「……よし」
緊張で震える手を、わたしは光を放つ釜に向ける。
ふと、後ろから柔らかな感触がわたしを包み込んだ。
「クロちゃん」
「ミュ、ミュウ?」
背後からミュウがわたしに抱きついている。
「クロちゃんなら、大丈夫だよっ」
「……ふふ、なんの根拠があるんだか」
そう口にするわたしだけど、不思議と心が軽くなっていた。
指の震えも止まっている。
うん、本当に大丈夫な気がしてきた。
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