海の底で5
アクアフィリスの女王は代々、この海の精霊から『加護』を受けるのだという。
それはつまり、精霊と繋がるという意味だ。
わたし――錬金術師の『契約』よりも、もっと強い結びつき。
「精霊との結びつきが強い私は、マナの穢れのせいで体調を崩してしまったのよ」
ん? それはつまり――
「女王に『加護』を与えている精霊が穢れに侵されている……?」
「ええ、クロさん。その通りよ」
そうか。なるほど。たぶん、これですべてが繋がった。
以前オヤカタくんに聞いた話だと、マナの穢れを浄化するのは力の強い精霊の役目だ。
この海のマナを浄化していた精霊はたぶん、女王に『加護』を与えている精霊だろう。
力の強い精霊でなければ『加護』を授けるなんてできないと思うし。
もしも、その精霊自身がマナの穢れに侵されてしまったらどうなるか……
たぶん、マナの浄化なんて不可能になる。そして、周囲にも連鎖的に悪影響をもたらす。現状がなによりの証左だ。
マリンシェルの周辺に、力の強い精霊はいなかった。
おそらく海の精霊が、地上のマナも浄化してくれていたのだ。それができなくなり、陸の上にも異変が起きたのだろう。
わたしはみんなに、それらを語って聞かせた。
「……やはり海に原因があったのだな」
ロゼが得心いったと腕を組んでうなずく。
「さすがクロさん名推理ですぅ」
脈絡なくチコが抱きついてこようとするのを手で制しながら、わたしは考える。
ひとつ疑問が残るのだ。
そもそも海の精霊は、どうして穢れに侵されてしまったのか?
「あのクロちゃん……ママの身体は大丈夫なの?」
「早く精霊の穢れを浄化しないとやべーぞ。たぶん死ぬ」
オヤカタくんが淡々とミュウに告げる。
「そんなっ――」
ミュウが息を呑んだ。
「ママっ!」
悲痛な声を出しながら、ミュウは女王に抱きつく。
女王は無言でミュウの背中をそっと撫でた。
「オヤカタくん……」
「オヤカタ……」
「さすがにぃ、今のはチコも引きますよぅ」
「ん?」
もうちょっと言い方があるだろうに。
わたし、ロゼ、チコの冷ややかな視線を受け流し、オヤカタくんは続ける。
「早く精霊を浄化すればいいだけですぞ?」
「そんな簡単にいくものなんですかぁ?」
「まったくだ、だいたいその精霊がどこにいるのかもわからないのに」
チコとロゼの言葉に、オヤカタくんは大仰に頭を振った。
「あーあーあー! これだからトウシロは!」
トウシロ?
「オヤカタくん、精霊がどこにいるのかわかるの?」
「今どこにいるのかまではわかりませんが、おそらくこの近辺にはいるでしょうな……というか、この国に来る途中でクロ様たちも遭遇したアレですよ」
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