桃真珠6

「ふっふっふっ、話は聞かせてもらいましたよ!」


 怪しげな笑い声と共に姿を現したのは――


「チコ?」


「そうですよぅクロさん、貴女のチコですよぅ」


 いつの間にか工房の入り口にチコが立っていた。

 その横には――


「ロゼちゃんっ!」


「やあ、ミュウにクロ」


「二人とも、どうしたの?」


 わたしが訊くと、チコが猛然と近づいてくる。


「はぁい、離れて離れてぇ!」


 そして強引にミュウとわたしを引き離した。

 おい、質問に答えなさい。


「実はオヤカタに呼ばれてな」


「オヤカタくんに?」


「ああ、なにやらクロが困っているから力を貸してくれと」


「チコは呼ばれてませんけどぉ、なんだか波動を感じて来ましたぁ」


 波動ってなんだそれ。


「そのオヤカタくんは?」


「ここにおりますぞ!」


 大きなきのこがシュバっと姿を現す。


「クロ様、なんでも人魚の国に向かわれるとか……このオヤカタもお供しますぞ!」


「……オヤカタくんも?」


 それはつまり、オヤカタくんも変身薬を飲んで人魚に……?

 ダメだ。ぜんぜん姿が想像できない。


「あ、ちなみにオレには変身薬とやらは不要ですので。この身ひとつで海底でもどこでも行けますからな」


「ええ……」


「なぜ残念そうな目を!?」


 ちょっと見てみたかったのに。人魚のオヤカタくん。


「はいはいはい、チコも行きたいでぇす」


「自分も」


 チコとロゼも名乗りをあげてくる。


「聞けば海底でもマナの穢れによる異変が起きているのだろう? ならば自身で調査に行きたいからな」


「うん、わたしもそのつもりだったんだ」


 なにか手掛かりがある、そんな気がするのだ。

 もちろん、ミュウのお願いを聞き届けるためというのもあるけど。


「チコはぁ、クロさんと一緒に行動したいからですぅ」


「なんか、そうだろうとは思った」


「それとそれとぉ、人魚姿のクロさんを見たいからですぅ……はぁはぁ」


 チコの目が血走ってるよ、怖いよ。


「……ていうわけみたいなんだけど、みんなで押しかけても大丈夫かな、ミュウ?」


「うん、もちろんっ!」


 よし、決まりだ。

 わたしは窓の外に目をやる。

 まずは、しつこく降り続ける雨を止ませよう。

 わたしは工房の窓を開け放つ。


「オヤカタくん、火を」


「はっ!」


 オヤカタくんが火を点けたロウソクをわたしに掲げる。


「ありがとう」


 わたしは少しだけ屈んで、ロウソクの火に天候操作の道具――桃真珠とひとつになった爆弾を近づけた。

 導火線に火が点く。

 火が本体に到達した瞬間、爆弾はわたしの手から勢いよく空に向かって飛び立った。

 雨の中、爆弾は空高く打ち上がり――

 爆ぜた。


『――雨が止みますように!』


 爆発の光と共に、わたしの声が周囲に大音量で響き渡る。


「そういう仕様!?」


 は、恥ずかしいよ!

 外では町の人が何事かと家々から顔を覗かせはじめていた。

 わたしは隠れるように顔を引っ込める。

 これでなんの効果もなかったら目も当てられないけど……


「わあっ!」


 ミュウが声を上げて窓から身を乗り出した。


「すごいっ! 見て、クロちゃんっ!」


 わたしも空を見上げる。

 分厚い雨雲から、光が差し込

んでいた。

 光に浄化されるかのように、雨雲が散っていく。

 徐々に雨も止んでいき――

 やがて空は完全に晴れ渡ったのだ。

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