桃真珠5
わたしは錬金釜の中から完成した道具を取り出した。
「で、できたの?」
ミュウが期待のこもった声でこちらを覗ってくる。
「形にはなってくれたみたい」
爆弾と桃真珠がひとつになった道具をミュウに見せる。
「クロちゃん……疑問なんだけどっ」
「うん?」
「普通に爆弾で桃真珠を壊すのじゃダメなのかな?」
「それは、わたしも思ってた」
天候操作道具の製法書を目にしたときからずっと。
普通に爆弾で『願いの結晶』を爆破すれば、それでいいんじゃないかって。
「それでもいいんだと思うけど……これはたぶん、道具の製法を考えた人のこだわりみたいな物なんじゃないかな」
「こだわり?」
「うん。これね、空に向かって打ち上げる型の爆弾なんだけど……」
結晶とひとつにすることで、空に打ち上げて爆破。そうすれば地上で安全確保する手間が省けるという面もある。
だけど、それだけじゃなくて。
「願い事は天に届けるものじゃない?」
だから空に打ち上げて爆発させた方が風情がある。
そういうこだわりだ。
ミュウがわたしを見て、目を瞬かせる。
「な、なに?」
「なんというか……クロちゃんて、意外とロマンチストだねっ」
「わ、悪い……?」
かあっと頬が熱くなった。くそ、言うんじゃなかった。
「ううん、素敵だと思うっ」
ミュウがわたしの手を自分の両手で包み込むように握る。
「ありがとう、クロちゃんっ。ワタシ、クロちゃんにはお世話になりっぱなしだね」
「まったくだよ……それで、どうする? もう行く?」
「え、でも変身薬の効果は……」
「ごめんね、ミュウ。あれはちょっと嘘」
わたしはミュウに本当のことを話す。
「……怒った?」
「ううん……ワタシを心配してくれたんだから、むしろありがとうだよっ」
「そっか、よかった」
安堵したわたしは、ミュウのために作っておいた変身薬を戸棚から出した。
ミュウの髪を入れて作った薬だ。
これをミュウが飲めば人魚に戻れるというわけだ。
「はい、これ」
薬が入った瓶をミュウに手渡す。
「あのね、クロちゃん」
瓶を受け取りながら、ミュウは遠慮がちな目でわたしを見つめる。
「どうかした?」
「お世話になりっぱなしついでに、お願いがあるのっ」
そうきたか。とことんまで厚かましい人魚姫様だなぁ。
「なに?」
苦笑しながら、わたしは訊き返す。
少し逡巡してから、心を決めたというようにミュウは口を開いた。
「その……クロちゃんもワタシと一緒に来て欲しいのっ」
「わたしも一緒に……って、アクアフィリスまで?」
「うんっ」
「アクアフィリスって海の底にあるんだよね?」
「そうだよっ」
「うん、じゃあ一緒に行けないよね」
わたしは人間だ。
海の底まで泳いで行くなんて、できるはずもない。
「ふふ、クロちゃんっ」
含みのある笑いをして、ミュウは手に持った瓶を掲げて見せた。
「これなーんだっ」
「なにって変身薬――あっ」
わたしは間抜けか。
これを飲めば、わたしも人魚になれるんじゃないか。
これまでの話しぶりからして、人魚には海底まで泳ぐ力があるのだろう。
「つまり人魚に変身すれば、わたしもミュウと一緒に行ける……!」
「そうだよっ!」
わたしとミュウは、手を取り合って喜び合う。
あれ? なんで、わたしも喜んでいるんだ。
――まあ、いいか。
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