桃真珠3
「ママが……倒れた?」
ヨナさんから告げられ、ミュウは呆然となる。
「はい……私はそれをお知らせしたくて、ミュウちゃんを探しに……」
「ヨナちゃんっ、ママは……ママはどうして倒れたのっ? ママは大丈夫なのっ?」
「原因は不明なのです……ただここ数日、お身体の調子が悪かったようで……その……」
ヨナさんは言い淀む。
おそらく女王の容態は芳しくないのだろう。
「……ワタシ、今から帰るっ」
「ちょ、ちょっとミュウ!」
わたしは、決然と扉の方へ向かおうとするミュウの腕を掴む。
「今から帰るなんて無理に決まってるでしょう」
「クロちゃん、でもママがっ!」
「オレもやめておいた方がいいと
思うぞ、人魚の嬢ちゃん」
「どうしてですかっ!」
オヤカタくんは、桶の中にいるヨナさんを指差す。
「海は大荒れだ。いくら人魚の嬢ちゃんでも、海底に辿り着ける保証はねぇだろ。そこの魚は運が良かっただけなんだ。次はケガだけで済むかどうかわからんぜ? まぁ、治癒の力があるから平気ってんならなにも言わねえが」
そんな大荒れの海で釣りをしたり、飛び込んで魚……というかヨナさんを捕獲するオヤカタくんっていったい……。
「それはダメです! ミュウちゃんの治癒能力は、他者にしか使えない……ご自身は癒せないのですから!」
「でもっ!」
なお食い下がろうとするミュウに、わたしは最大の問題を突きつけなければならない。
「ねぇ、ミュウ……今、自分がなんの姿をしているのか忘れてない?」
「あっ……」
ショックで動揺して、本当に頭から抜け落ちていたのだろう。
呆然と、ミュウは自分の下半身を見下ろす。
ミュウは今、人間なのだ。
人間が海底まで行くなんて不可能。たとえ海が荒れていなくとも、それは絶対だ。
「クロちゃんっ、元に戻る薬をっ」
「ごめん、変身を解除する薬はないんだ」
これは事実だけど、ちょっと嘘……かもしれない。
元に戻りたいなら、ミュウの髪かなにかを使った変身薬を作り、それをミュウ自身が飲めばいい。
だけどわたしは、ミュウを危険な海には行かせたくない。だからこれは、黙っておく。
「ねえミュウ、変身薬の効果が切れるのは二日後。それまでに大雨が止んで、海が穏やかになってくれたら……」
「そんなに待てないよっ! ワタシのママがっ! それに、雨が止むかどうかもわからないのにっ!」
「だよね」
ミュウがポカンと口を開く。
「だから、わたしがなんとかする」
「へっ?」
「さっきミュウも言ったじゃない。雨を止ませる道具、わたしが錬金術で作るよ」
きっぱりと、わたしはミュウに言った。
「で、でも……クロちゃん、材料がないって……」
「なんとかする」
錬金術に絶対の製法は存在しない。
たとえ材料がなくても、別のなにかを代用すれば錬成できる可能性だってある。
「なんとかするから、待ってて」
そう告げて、わたしは工房へと早足で向かった。
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