買い物とお茶と5
服を買った後、わたしとミュウは町の雑貨屋で必要な物を色々と揃えた。
「クロちゃんっ、お腹が空きましたぁ……」
さっそく購入した服を身に着けているミュウは、荷物を抱えながら情けない声を出す。
「時間的には、お茶の時間だけれど……」
町のカフェに行くのもいいかもしれないが、さすがに荷物が多すぎる。
「とりあえず、いったん家に帰って荷物を置いてからかな」
「はぃぃっ……」
荷物を抱えたミュウとわたしは、家に戻った。
「おや、クロ様! お帰りなさいませ!」
家に帰ると、庭で畑を耕していたオヤカタくんが出迎えてくれた。
「ただいま、オヤカタくん」
「オヤカタさん、ただいまですっ」
「ああ、人魚のお嬢さんもおかえりだ」
「見てくださいオヤカタさんっ、この服、クロちゃんが選んでくれたんですよっ」
荷物を放り出して、ミュウはオヤカタくんの前でくるりと回ってみせる。
「ほうほう、さすがクロ様の感性は素晴らしい」
「ワタシに対する感想はないんですかっ!?」
「え、まぁ、いいんじゃね?」
「反応が薄いですっ!」
オヤカタくん、なんかちょっとチコみたいな所あるよなぁ。
わたし以外への対応が極端に違うというか……
「しかし、すごい荷物ですな。どれ、オレが中まで運びましょうぞ」
「え、大丈夫? かなり重いけど……」
わたしが心配すると、オヤカタくんはこちらにグッと親指を立ててきた。
「任されよう」
凛々しい顔つきと声音で、オヤカタくんは言い放つ。やだかっこいい。きのこだけど。
小さな身体で大きな荷物を軽々と持ち上げると、オヤカタくんは軽快な足取りで家の中まで運んでいった。すごいな。
「ひとまず入り口に置いておきましたが、いいですかなクロ様」
「うん、ありがとう。……あ、そうだ。これからカフェに行こうと思っているんだけど、オヤカタくんも一緒にどう?」
わたしは戻ってきたオヤカタくんを、お茶に誘ってみる。
「むむむむ……嬉しいお誘いですが、まだあの子たちの面倒を見たいので」
オヤカタくんは畑の方を見ながら、「すいません」と辞退してきた。
「そっか。ところで、なにを育てるの?」
「ふふふふ……色々ですな」
「色々」
「ええ、色々ですぞ」
どうやら、詳しく教えてはくれないらしい。
楽しみにしてろってことだろうか。
「では、オレは作業に戻ります」
ペコリとわたしに一礼するオヤカタくんの頭から、なにかキラキラした粉のような物が地面に落ちる。
え、これってもしかして――
「オヤカタくん、頭からなんか出てるよ」
「おっと失礼、胞子が……いやぁ、お恥ずかしい」
やっぱり胞子だった!
まぁ、きのこだもんなぁ。
「あの……オヤカタくん、気を悪くしないでね」
「なんですかな」
これは一応、確認しておかなければならない。
「オヤカタくんの胞子には、毒とかはないよね?」
わたしの質問に、オヤカタくんはどうしてだか呵々大笑した。
「心配無用。むしろ薬になるぐらいでして――」
「クロちゃん、まだですか〜っ!」
オヤカタくんの話を遮るように、ミュウの不満げな声が飛んでくる。
「お腹が空きました〜っ!」
「……しょうがないなぁ。ごめんオヤカタくん」
「いえいえ、行ってらっしゃいませですぞ」
ちょっと気になるけど……毒がないならそれでいいか。
オヤカタくんに手を振って、わたしは駄々をこねるミュウの元へ急ぐのだった。
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