最終話

王城にある一室。

貴族が罪を犯したときに使う部屋の中。


わたくしミューティアとクロード様は裁判室の左側に座ります。王妃様が中央左側の席に座り陛下の補佐をします。



「マグナリア公爵、及びアリステラ公爵夫人、及びシェリア公爵令嬢、連れて参りました」


数人の衛兵に連れられて、後ろ手に縛られた3人が謁見室に入ってきた。

既に貴族牢で尋問が行われたのか、公爵と夫人は顔色が真っ青だった。


最後に国王陛下が入室し、裁判が始まる。


「ベリオス・マグナリア、アリステラ・マグナリア、シェリア・マグナリアの裁判を始める!証人は前へ!」


国王陛下の宣言でわたくしミューティアが証人席へと移動しました。

私を見るお父様たちの表情は、憎々しげでしたが、わたくしは目を逸らすことはしませんでした。

見届けなくてはなりませんから。


「ミューティア・マグナリアが証言します」


手元に置かれた書類を陛下と王妃、クロード様、宰相様に渡します。

私の部下がお父様の隠し金庫から見つけた物です。


「まず一枚目をご覧下さいませ」


一枚目には、父ベリオスが叔父様を殺害せんとした証拠が揃っています。

叔父様の馬車に細工をした使用人を探し出し連れて来てもいます。

更に、お父様とお母様の会話を聞いていた侍女に話を聞いて裏付けも取っています。


クロード様の手を煩わせてしまいましたが……


「馬車の車輪のネジに細工か……しかも、直ぐに事故を起こすものではなく、自分達が王都に来ている間に事故が起きるよう細工をしたのか」


そうです。

わたくし達が王都に来ていたのは偶然ではありませんでした。

お父様は、叔父様が事故に合った知らせを直ぐに受け取れるよう王都に来たのです。


「っ!何故それを!…その紙は金庫にっ……!」

「金庫のパスワードは変わっていません。お父様の他に知っている方がいるのです。お分かりになりませんか?」

「……!」

「叔父様……」


扉から叔父様が姿を現しました。

そのまま私の隣の席に座ります。


「久しいな、兄上」

「リベオス……!」


憎しみを込めた瞳で叔父様を睨みあげるお父様。だが叔父様は、ため息を一つつきお父様の睨みを正面から受け止めます。


「私はリベオスではありませんよ。兄上。記憶を失っていた間に新たな名を頂いたので、今は其方そちらを名乗っています。私はキュアン・ラインベル侯爵です」


そう、叔父様はリベオスからキュアンという名前に変わっていて私も最初は分かりませんでした。なので、探すのに時間が掛かってしまいお父様達を増長させてしまいました。



叔父様の手が、膝の上に乗せていた私の手を握ります。震えていたのがバレてたみたいです。叔父様に視線を向け「大丈夫」と伝えるが、手が離れることは無かった。


「私が金庫のパスワードをミューティアに伝えたんだよ」

「リベオス、きさまぁー!」

「お、お姉様!!止めてくださいませ!!私たち家族でしょう?!!」

「いいえ」

「え?」

「#私__わたくし__#は、貴方達を家族と思ったことはありませんよ。だって、お父様とお母様はシェリアを愛し、シェリアは私の大事なものを奪っていく。家族の愛もドレスやアクセサリーも、……クロード様も奪おうとしたでしょう?」

「あれは、だって、お姉様には不釣り合いですもの……私の方がクロード様の隣に相応しいと思って…」


「馬鹿馬鹿しい、貴方如きがクロードの隣に立てると本気でおもって?わたくしが認めたティアを差し置いて?」


シェリアの言葉に、王妃様がピシャリと言い放った。


「その場に合った装いが出来ない。挨拶も出来ない。お茶会の作法もなっていない。言葉遣いもダメ。更には、場違いな嫉妬をして相手を蹴落とす姿は見ていて醜かったわ」

「そ、そんな」

「万が一にも、貴方をクロードの嫁にしては、この国が滅ぶわね」

「それは、あまりにも言い過ぎです!」


シェリアは、自分の立場が分かっているのかしら?!この場において王妃に口答えするなんて……処刑になる可能性を考えてないの?!


私は、元とは言え、彼らの処刑を望んでる訳じゃないわ。

なのに、あの子は馬鹿なの?!


「ミューティア、次の書類を」

「……畏まりました」


宰相に促され、表情を引き締め、2枚目の書類を国王夫妻、宰相に渡す。それは、父が秘密裏に行っていた横領とそれに関わっていた貴族達を記したものです。


私が、領地の経営に関わった時には既にかなりのお金が父に入っていました。

父だけじゃなく、男爵家と伯爵家が関わっているのも分かりました。


因みにその伯爵家ですが、この間のお茶会には招待されてません。愛人に貢ぎ過ぎて落ちぶれかけている伯爵家ですので。


3枚目の書類には、筆頭公爵家の妻という肩書きを使って、公爵家以下の夫人達を虐めていた事実と、シェリアが行っていた強盗紛いのお強請りの証拠が書かれています。


全てに目を通した両陛下は、顔を顰めさせます。一応報告はしていたのですが、予想以上に悪事を働いた貴族が多かったからかも知れません。


国王陛下は王妃と話し合い、判決を下します。


「では、判決を下す!」


ダンっとガベル《※1》を打ち鳴らす。


「まず、ベリオス・マグナリア!お主には、マーシェル公爵家が所有する鉱山にて、務めを果たせ。辞めることは許さぬ。一生を鉱夫として過ごすことを命ず」


父は一生を鉱夫として過ごさなければならない。判決を突きつけられ、項垂れる父の背は哀愁が漂っていた。


「次いで、アリステラ・マグナリア!お主にはベリオスとは違う鉱山で、賄い婦として働くことを命ず。辞めることは許さぬ」


母も違う鉱山にて賄い婦をするよう、命じられました。悲鳴に近い声を上げ、猿轡さるぐつわをかまされました。


「次いで、シェリア・マグナリア。お主には我が国より北に位置し荒野を抜けた先にある辺境の修道院へ行くことを命ず。逃げ出す事は出来ぬと知れ」


「そんな!嫌です!いや!お姉様!クロード様!助けて下さい!私をたすけてぇ」


泣きながら訴えるも、父も母も自分のことで精一杯でシェリアを気にかける余裕も無くなっていました。

けれど、わたくしは父を、母を、シェリアを可哀想だとは思えなかった。


自業自得だと……


「これは、決定事項である!衛兵よ!連れて行け!」


シェリアは、部屋から出される間も、ずっと叫んでいた。


自分は悪くない助けて、と……

お姉様なんて大嫌い、と……

クロード様助けて、と……


両親がわたくしとシェリアを分け隔てなく育ててくれていたら、違った結末が待っていたのだろうか…。


否、それでも、運命は変わらなかった……そんな気がします。


それから数日、父は衛兵に連れられてマーシェル公爵家所有の鉱山に連れて行かれました。

同日、母もマーシェル公爵家が所有する別の鉱山に連れて行かれました。


2人が連れていかれた翌日に、シェリアも辺境の修道院に旅立って行きました。




私は、正式にラインベル侯爵家に籍を移し、ミューティア・ラインベル侯爵令嬢となりました。


マグナリア公爵家は、取り潰しが決定し、マグナリア公爵が所有していた領地は一旦王家に返還することになりました。


ですが経営は、公爵領で働いていた#私__わたくし__#の部下達が優秀なので、そのまま屋敷に残り領地を任される事になりました。


王家に返還されましたが、近々ラインベル侯爵家に与えられる事が決定しています。


私は、ラインベル侯爵令嬢としてクロード様と再び婚約をする事になりました。


はい、逃げられませんでした。


逃げられなかったせいで、わたくしクロード様に、無理難題を何度も突き付けられる事になりましたわ。


おかげで、婚約はしましたが……恋とか愛とかは皆無ですけど…。

まぁ、政略結婚ですものね。


クロード様にとっては、相手は誰だって構わないんですものね。別にわたくしじゃなくても良いんですものね。


あの夜の事は、気の迷いでしたのよね!


別に、気にしてませんのよ。







なんて、嘘ですわ。



わたくしも、ずっと過ごして行くうちにクロード様の事、好きになってましたのよ。


あの日の事が嘘ではないのなら、もう少しくらい、こう、何かあっても良いと思うのですわ。



でないとわたくし、都合のいい解釈をしてしまいますわよ。





あの裁判の日から数ヶ月後。


マグナリア公爵家の取り潰しや、汚職をしていた貴族の一掃、領地の返還や譲渡、など山ほどの仕事が落ち着いて来た頃。



「クロード様!!」

「なんだ?ティア、騒がしいぞ」

「頼まれていた書類です!」


そう言って私は、クロード様に書類を叩き付ける。あの日から既に数ヶ月が経っており、私はクロード様との婚約を破棄し、ラインベル侯爵令嬢として、再び婚約をしました。



結婚の話は出ず……は、まぁ良いです。

良くないですけれど、いいです。


それよりも、

あの日から、殿下の人使いが荒すぎます!わたくしも部下も、王都にいる日が少ない。

しかも、帰って来たらきたで、次の仕事を押し付けられる始末。


貴方の部下は私だけじゃないでしょう!!



「ティア、俺はまだ、シェリアを俺に焚き付けたお前を許してはいない」

「……っ!」

「次の仕事は、コレだ。頼んだぞ」

「……分かりましたわ。では、御前失礼します」



クロード様のバカ……





※※※


そう言って一礼して部屋を出て行くティア。


「クロード様、宜しいのですか?あの様なことを言って」

「何がだ?」

「ティア様の事ですよ!しかも、仕事まで押し付けて…アレなら、私や他の者でも出来る仕事です」

「構わん。ティアが帰ってくる頃には、全ての準備が整うはずだしな」


ティアを王都から離してるのには理由がある。サプライズにしたいからな。

ティアの驚く顔と照れた顔が思い浮かぶ。


だが、シェリアの事を言ったのはまずかったか……あの事は既にどうでも良いしな。


まぁいい、ティアが帰ってきた時の事を考えるか。


「そうかも知れませんが……」

「サミュエル。ドレスの進み具合は?」

「問題ありません」

「会場や招待客の準備は?」

「既に主要人物には文を出しております」

「ならばいい」


俺は窓に近寄り、ティアを思う。

マグナリア公爵を潰すために近寄った令嬢。

恋に興味など無かった。

結婚相手など誰でもいいとさえ思っていた。


だけど、会ったティアは、俺の予想の斜め上にいて、目が離せなかった。

公爵の事も独自で調べてたようだし。


協力関係になって、お互いに情報交換しあった。ティアは王妃教育、俺は執務をして万が一にも公爵に気取られないように細心の注意を払った。


ティアは……そう言えば母上の覚えも良かったな。父上もティアの事は娘のように可愛がっていたっけな?


だから、ティアの今後を考えて、ティアとラインベル侯爵と父上達と話し合い、マグナリア公爵からラインベル侯爵に籍を移動させることにした。

でも、完全に移動させると感付かれるかもしれないので、マグナリア公爵にも籍を残しておいた。


窓から手を離し、自分の席に座る。

今では、ティアが婚約者で良かったと思ってる。ティアが気付いてるかは分からないが、俺はティアを心から愛してる。


だから


「帰ってきたら、結婚しよう。ティア」




~完~


※1 ガベル(裁判官が打ち鳴らす儀礼槌の事)




またっ!

何故、私はラブラブな展開を書けないのでしょうか…(-.-;)

でも、帰って来たティアは、クロードにプロポーズされ……きっと、幸せになったでしょうと思います。


皆さん、楽しんで頂けたでしょうか?

この小説が、少しでも皆さんの暇を潰すきっかけになったなら嬉しいです(^^)


他の投稿サイトにて、反響がありエピローグ的なものを書くことにしました。

12月中には書く予定なので、よろしくお願いします。


最後長くなりましたが、ありがとうございました(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

王太子が婚約者になりました。妹がいつものセリフを吐きます「お姉様シェリア一生のお願い」って、あなた何回一生のお願いを使うつもりです? 紫苑 @rose-sion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ