第7話

シェリアが、また訳の分からないことを言い出した。


『お姉様こそ、何を言ってるの?私はクロード様の妃になるのよ?いずれは王妃になるの。私にそんなことを言って罰を受けるのは貴方達なのよ?』


辺りがシーーンと静まる。


「誰が、誰の妃になるって?……王妃になると、言ったの?」


シェイミー王妃様の笑顔が凍りついた。

声には凄みが増し、辺り一帯が一瞬で冷気に包まれた感覚がした。シェリアは完全に、シェイミー王妃を怒らせたのだ。


遅刻ギリギリの登場、装い、お茶会の作法。立場を理解していない言動や、もちろん献上される筈だった青薔薇の件も含めての怒りだった。


「全く、ティアの妹だからと大目に見てあげてましたが、流石のわたくしでも我慢の限界ですわ」

「お、王妃様…娘はまだ幼く…御容赦を」


父が王妃に懇願するが、それが叶えられる事は絶対にない。


幼いって……デビュタント済ませてる時点で幼くはないわよ。成人してるんですもの。


「容赦も何も、貴方達が無知すぎるのが問題でしょうに。公爵家が代替わりしてから、使用人やティアが領地を経営し、執務もこなし貴方達の無能をフォローしてくれてましたが…。全てが無駄だったようね」


そうなんですわ。

私達は公爵家の人間ですが、お父様は公爵ではありませんでした。お父様の弟が公爵を継いで、でも亡くなったと…王都に遊びに来た私達は聞かされましたの。


「貴方達も……わたくしが何も知らないとでも思ってるのかしら?不正で手に入れた地位など何の意味もないのよ?」

「な……何でそれを……!」


父は目に見えて狼狽えている。

母も顔を青ざめさせシェリアを抱き締めた。「お母様?」と何も知らないシェリアは母親の顔を覗き込み「どうしたの?」と聞くが答えは返ってこなかった。


「叔父様の事故に疑問が湧き調べました。お父様はご存知ないかもしれませんが……リベオス叔父様は生きてますよ」

「なっ!!!!」

「ある方が助けて下さり事なきを得たのです」


そう、リベオス叔父様は死んではいない。

侯爵家に助けられ、そこの令嬢と親しくなり結婚していた。

最初の頃は記憶がなかったらしいが、私が接触した時には記憶は戻っていた。


夫人は子供が出来ない体質らしく、結婚する気は無かったそうですが、叔父様の熱烈なアプローチに根負けしたそうです。


「貴方達は、私たち王族を馬鹿にし過ぎです。公爵の死を調べないとでも思ったのですか?無能な貴方達が跡を継いだ事に疑問を持たないとでも?ティアに接触し婚約者にしたのもは貴方達の不正を調べるためですよ」


そう、私を含め4人の令嬢が婚約者候補だったのはただのカモフラージュ。

私を引き込み不正を暴くための。



「貴方達の処遇は追って伝えます!連れて行きなさい!」


王妃様の言葉で近くに控えていた衛兵が、お父様達を拘束し連れて行こうとする。


「え?なんで?クロード様!助けて下さい!私は貴方の妃に…「お前を妃にすることは絶対にない」」


シェリアの言葉に被せるように、クロード様は告げる。母はシェリアを守るように抱き込み私に向かってヒステリックに叫んだ。


「私達を売ったのですか……あなたは!それでも私の娘なの?!」

「ええ、貴方の娘ですわ。だからこそ、家族の不正を見逃す事など出来ませんでしたの…本来なら、この場で糾弾するつもりはありませんでした。シェリアが、問題を起こさなければ……ね」

「罪人の娘になったら、クロード様の婚約を続けられませんよ!」

「ええ、覚悟の上です」


連れて行かれる家族を見つめていたら、背後に人の気配が……クロード様でした。

肩に手を置かれ、私の頭を抱き締めるように寄せるクロード様。


「泣いてませんよ」

「そうだな」


それでも、家族の姿が見えなくなるまでそうしててくれるクロード様は腹黒で、鬼畜だけど優しいひと。


また後日、父達の断罪を見届けなければいけないのに……悲しくないわ。

愛してくれなかった家族など……

……なのに、心に渦巻くのは………





お茶会は、直ぐにお開きになった。


『ごめんなさい、カリナ様。シェリアがした事、許されるとは思ってません。私の持てる全てで償わせて頂きます』

『そんな!ミューティア様の責任ではありません!悲しいですけれど、次はもっと綺麗に咲かせて見せますわ』

『ありがとう、でも何か困ったら侯爵令嬢に相談に行ってね。必ず力になってくれるわ』

『……!はい、ありがとうございます!』




月明かりが照らす王城の廊下で物思いに耽っていた私は、人の気配に気付くのが遅くなってしまいました。

バッと振り向けば、そこに居たのは……



「ティア……」

「クロード様」

令嬢とは、婚約破棄になってしまったな」

「ええ、そうですわね」


淡く微笑みながら答えると、クロード様は苦虫を噛み潰したような顔になった。


「嬉しそうだな…」

「そんな事ありませんわよ?でも、婚約者は別の方にお願いしたらどうでしょう?」

「ああ、別の者を婚約者にするさ。をな」

「……え~~、は下さらないのですか?」

と本気で思ってるのか?あれほどの人物を?」


軽口を叩きながら、廊下の隅で向き合う。

クロード様の手が私の髪に伸びる。


「俺は、割とお前の事を気に入っている。一緒になるならお前が良いさ」

「……そんな素振り、見たことありませんわ」



髪をひと房手に取り、口付けをすると手を離す。はらりと落ちた髪に視線を落とすと、クロード様の手が顎に添えられる。

そのまま上に向かされ、クロード様の綺麗な顔が目前に迫る。


「目ぐらい閉じたらどうだ?」

「……閉じたら口付けするでしょう」

「閉じなくても、するがな」


その言葉の直後、私の唇に彼の唇が重なる。

月明かりの下、唇を離した2人は暫く抱き合っていた。



※※※


次回最終回になります。

ここまで読んで頂きありがとうございます(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

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