第22話 雨天決行

今日は朝から雨が降っていた。

季節感のないシトシトと降る冷たい雨は、降ったり止んだりを繰り返しながら、肌寒い空気の中を落ちる。


グランドのコンディションはイマイチながらも、かろうじて試合が出来る。そんな状態だった。


「ほんとにやるの?さすが外野はぬかるんでるよ」

ヨシユキ君がぼやいた。

みんなも最初は気落ちがちだったが、相手のチームの登場に目つきが変わる。


姿川第一小学校。宇都宮市内の有数のリトルリーグを保有したチームの一つ。

FC宝木や壬生レッドと並び優勝候補と言われている。



試合は4回を終わって互いに無失点。

寸分狂わぬ投手戦。


先攻は私達。相対する相手のピッチャーは左の本格派。ケンゴ君の事前データでは、そのスピードは130キロを超えると言っていた。


私もその速さを味わったが、それはそれは、桁違いだった。球速もそうだが、勢いが違う。

サイドで放たれたボールは手を離れると唸り声をあげ突き進み、襲われるような恐怖をバッターに浴びせながらキャッチャーミットに収まる。


目で追うのがやっと。勇気を持って振ったとして、バットは虚しく空を切っていく。

それは、私だけではない。ほとんどが右打ちで構成された南摩打線は、苦手な左投手相手に苦戦を強いられていた。あの、シンジさんでさえ当てるのがやっとで、未だにヒットは皆無。


それでも、あきらめムードにならないのは、姉の力投があったからこそだと思う。ほとんどの選手がリトルリーグに所属しているらしく、選手層の厚みを感じる。


そんな凄腕のスラッガー達を、姉はバッタバッタと薙ぎ倒し、ヒットこそ許すものの、低め低めに投げ集め、長打は許さない。



試合が動いたのは雨足が強まる5回裏。

とうとう、相手チームが姉の球を捉え出す。

先頭バッターに外角低めを流されて、ライト前ヒットを許すと、続く7番バッターがバントでランナーを進める。


ワンアウト、ランナー2塁。


相手方はチャンスをものにしようと代走を起用する。層の厚さを見せ付けられる。


そんなことを気にする気配もなく、姉は冷静にポケットのロジンに手を伸ばし、滑り止めを馴染ませた。


帽子の唾を弾く雨音を気にする事もなく、緩急を武器にバッターを追い込んでいく。対するバッターも、負けじときわどい球をカットしファールで逃げる。


それでも最後は決め球の内角低め。バッターの懐を抉る速球で三振を取ると、スタンドの色とりどりの傘が舞った。


「ツーアウト!」


私も腹から声を出し、姉を鼓舞する。

バッターは9番。代打はない。

この回をキッチリ閉めて、次の攻撃では何としても点を入れなくては、そんなことを考えていた。

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