第20話 小さなピッチャーの独り言②
一点をリードして、5回の裏の守備。
陽光厳しい昼前のグランドに、若い声が飛び交う。その熱い声援に大人の声も混じり出すと、もうこれは子供のお遊びとは揶揄出来ない。
そんな声達を跳ね飛ばすように雄叫びをあげるキャプテン。サードゴロを得意の強肩でアウトに仕留めると。さらに熱く吠えた。
キャプテンはチームをまとめ上げる素晴らしい人だ。だけど、何処か私と似た匂いを感じてしまう。
「俺には声を出すくらいしか出来ないから」ポツリと溢すその一言に、本当の弱さを窺い知ることができる。
それでも、私はその声に救われている。何気ない一言に、ガッツ溢れるその声に、チームは救われているの。
「ワンアウト!」
キャプテンの雄叫びに呼応するかのように、チームが沸き立つ。スタンドが揺れる。
熱気。色めき立つ晴天の空に木霊する若人の勇姿。
あの時、お姉ちゃんと野球をやると決めたあの時から、まだ半年しか経ってないのに、野球は私に色々な事を気づかせ、決して今までに得ることの出来ない経験を与えてくれた。根暗な私を少しだけ変えてくれたと思う。
打球はふらふらっとライトに上がる。私を野球に誘った張本人は素早く落下点に入ると難なくキャッチした。
「ツーアウト」
姉の天真爛漫な声に鼓舞されて、今日も何とか投げれています。そう自分に現状報告を入れる。
「いいよ〜。あと一つ。ユイナ〜。可愛いよ」
過度な妹思いも、今となっては心強い。
私はホームに向き変え、キャッチャーミットに狙いを定めるように凝視した。
みんなの声援もしかりだが、最終的に私がマウンドに立ち、投げれているのはシンジさんの存在があってこそだと思う。
勝手ばかりを通してきた私の球を、見捨てることなく、咎めることなく、それは氷を解かすようにゆっくりと、じっくりと私の凍った心を解かし、見守ってくれていた。この大きな存在に気付いた時、私には何物にも代えがたい安心感を得た。自信を得た。見失った自分を見つけてもらった。
たぶん、マウンドに上がる姉も同じ思いを、同じ経験をしているのだと思う。
そして、託したんだと思う。私を。このどうしようもない私を変える為に。
野球というスポーツに。そして、シンジさんというキャッチャーに。託したんだと思う。
お姉ちゃん。私、変われるかな?
シンジさん。私、変われているかな?
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