第19話 小さなピッチャーの独り言①

驚愕の一回戦を終えた次の日の二回戦。

この日はケンゴ君の奇策がばっちりハマり順風満帆とはいかないまでも、流れは私たちに味方していると肌で感じていた。


ケンゴ君が編み出した奇策は、層の薄い地方チームではありえない、継投作戦。

打者一巡を姉が投げ。次の一巡を私が引き継ぐ。そして、最後はまた姉が投げ切るといった作戦。


現在、三回が終わり姉は一人もランナーを出さずに完封する。

勢いそのままに4回裏。

姉はライトに退き、私はマウンドに赴く。


昨日と打って変わって、私の気持ちは晴れやかだった。なにせ、ピンチには姉を頼れるというのは、精神を安定させる事に一役も二役かってくれた。

こんなにも、私は姉に依存していたのかと錯覚するほどだが、それはあくまでも野球の話。


私が伸びやかに、しなやかに、ボールを投げると、振り遅れたバッターのボールは内野に転がる。


それをセカンドのたっちゃんは綺麗にさばき、ファーストへ送球した。

「ワンアウト」

たっちゃんと声を掛け合う。

近くに同級生がいるのは心強い。

足も速くて人気のある彼と、分け隔てなく話せるのは野球のおかげだと思う。

きっと、昔の私なら疎ましく思うことはあれ、明るく声をかけることはできなかっただろう。


そして、兄のユウキ君。

一つ年上の彼は弟以上にモテる。

彼は何でもないショートゴロを華麗に捌くと、スタンドからは黄色い声援が飛び交った。

そんな声に聞き耳をもたず、「ツーアウト」と私に爽やかな顔を向ける。私も小さな返事で答えた。


次のバッターは初球打ち。ボテボテのピーゴロを私は捕球し、一塁へ送球。

リョウタ君は体に見合わない軟体を見せつけるように股を開き、私の送球をファーストミットに納めた。


この人は癒し。眼光ギラつかせながらベンチに帰る先輩方と一線を置いて、ほのぼのとしている。リョウタ君は「ナイピー」と、優しく声をかけてくれた。


それでも、5回表。先頭バッターのシンジさんが出塁すると、目の色を変えてバッターボックスに入る。ギャップ萌えな彼。

リョウタ君の気持ちいいフルスイング。ボールは快音と共に、私には到底届かない程の距離まで飛んでいく。


ノーアウト、ランナー1塁、3塁。


続く姉は内野ゴロで倒れる。3塁ランナーは動けず、コースアウトで2塁に向かうリョウタ君がアウトとなるが、ゲッツーは免れる。


7番バッターはヨシユキ君。ちびっ子野球友の会を密かに運営する彼は、何かと私に気をかけてくれている。

「ちっさくても、野球なら活躍できるんや!」と不思議な訛りを響かせ、私やたっちゃん、近所のちびっ子達に野球の素晴らしさを熱く語る。言うだけあって、努力も惜しまない。それは結果としてついてくる。


彼はここぞと言う場面でスクイズを決め、チビでも活躍出来るを実践してみせた。


それでも、8番の私は三振に倒れ、5回裏の守りに転じる始末となった。


情け無さが込み上げてくるが、今はピッチングで挽回しようと気を取り直す。

チビが投げる球を好きだと言ってくれた人がスクイズを成功させたのだから。

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