第17話 仲間を信じて

4-4と追いつかれた六回表。

なんとかツーアウトにこぎつけたバッテリーに、相手4番バッターが立ちはだかる。

姉がキリキリ舞に抑えた相手とはいえ、4番に変わりはない。人一倍大きな体格に独特の威圧感を感じる。


物おじしなかったと言えば嘘になる。

それでも、私は大きく振りかぶり、鞭のように腕を振るった。


初球打ち。

差し込まれながらも強引に振り抜くバッター。振り遅れたバットはボールの下を掠る。

ふらふらっと上がったボールは一塁側ファールゾーンを舞う。


りょうた君が巨体を揺らして駆け出した。

一塁側ベンチ前。

りょうた君は地面に、のしかかるように飛びついた。

泳ぐように宙を舞っていた白球は、大事そうにファーストミットに収まっていた。


長い長い悪夢だった。

ようやく闇を脱した。

私たちは奇声に近い、意味不明な言葉を吐き出しながら、ベンチまで一直線に走った。


「アンタたち、ゆいちゃんが一生懸命に投げたんだから、男見せなさいよ。取られた分、取り返してあげなさい!」

監督さんは私を責めることなく、ぎゅっと抱きしめながら、皆に檄を飛ばした。


みんなも私を責めず、寧ろ褒めてくれた。

ホッとする私と、自己嫌悪を抱く私とが、心の中で入り乱れる。不甲斐ないと思いながらも、一生懸命に応援している皆んなを見ていたら、そんなことは何処かに消えていた。


熱気を纏う、味方ベンチ内。

冷静にバッティング手袋を巻くシンジさん。


「さっきは気を遣ってくれて、ありがとうございました。おかげで何とか投げ切る事が出来ました。」

「おぅ。ピッチャーを気遣うのはキャッチャーの役目だ。そんな顔しなくて良いんだよ。こういうのも含めて、ピッチャーの良いところを引き出すのが、キャッチャーの醍醐味なんだから」

「でも、4点、、、」

「大丈夫、まだ負けた訳じゃない。野球ってのは点を多く取れば勝ちなんだぜ。面白いだろ」


当たり前のことをニカっと笑って放つ。

それが、シンジさんだから私も笑ってしまう。

だって、シンジさんは昔から有言実行を絵に描いたような人だから。


私がウジウジしている間も、6回裏の攻撃、みんなが勝利に向かって必死に繋いでいた。

1番、ユウキ君の綺麗な流し打ち。

2番、タッちゃんの果敢に攻めたセーフティバントは、アウトになったものの、ランナーを2塁へと進めた。

3番、キャプテンの気合いの一打。力みで少し差し込まれながらも、気持ちでライト前に落とした。


ワンアウトながら、ランナー1塁、3塁。

そこに、堂々と構えるシンジさん。

ワンストライク、ツーボールのバッティングカウントから、浮いた球を見逃さず叩いた。


ボールはグングンと飛距離を増し、凄い勢いで左中間を抜いた。

ユウキ君もキャプテンもホームベースを踏んで味方ベンチに帰ってくる。

当の本人は3塁へスライディング。


2点を取って、バッターランナーは3塁に駒を進めると、続く5番りょうた君。

初球を叩いた豪快な当たりは、またも左中間を抜くかという当たりだったが、ここは後方守備に阻まれ、ツーアウト。

それでも、タッチアップで更に追加点を入れた。


シンジさんはハイタッチや頭を叩かれながら祝福されベンチに戻ってきた。

私もその輪の中に加わる。

「なっ、言ったろ、負けてないって」

できる男の一言は私の心に響いた。

かっこいい。

その一言に尽きた。


7-4と味方の援護を貰った7回表。

私はマウンドへ向かう。

「あんたは自慢の妹よ。最後くらい楽しみなさい」

「うん」

私は颯爽とライトに走る自慢の姉を見送った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る