最後の夏、最初の夏

第13話 イケイケ

一回裏。

三者三振で流れを掴んだ南摩打線は、一部の保護者の不安を一掃するかのように快音を響かせた。

一番バッター、兄のユウキ君がレフト前に落とす技アリの一打を放ったのだ。

その後、二番バッター。弟のタッちゃんがバントで一塁ランナーを送るとワンアウト、ランナー１塁。選手宣誓で良い感じに力の抜けたキャプテンが、力強くセンターに返す。

ワンアウト、ランナー1塁、３塁。

バッターは四番のシンジさん。

厳しいコースには手を出さない。慎重にボールを選んでいる。

ワンストライク、ワンボール

１塁のランナーコーチに着いていた私は、祈るように見つめた。

こんなにドキドキするのは、ベンチのケンゴ君のサインを見てしまったからだ。

相手ピッチャーは投球動作に入る。ピッチャーはサードランナーを目で牽制しながらも、目線をバッターに切り替える。

次の瞬間にランナーは走り出す。

スクイズ。

シンジさんはバントの姿勢へ、構える。

やや高めに浮いた球、バットはコツンと音を立ててボールを前へ転がすも勢いは死なない。苦しくもほぼピッチャー前。ピッチャーは、ダイレクトに右手でボールを掴むと、そのままキャッチーに返球。

手に汗握る、クロスプレー。

1塁ベースを駆け抜けたシンジさんと私は、食い入るようにホームに目を向けた。

しんと静まるスタンド。降り注ぐ、やかましいくらいの蝉の音。鼻腔に夏の湿った重い空気が入り込む。ゴクリと喉が鳴る。

ユウキ君の左手はホームベースを捉え、その上を相手キャッチャーのミットが覆い被さる。

「セーフ！」

主審が大きく両手を広げると、ドッと歓声が沸いた。私とシンジさんはハイタッチを交わす。シンジさんは向日葵のような笑顔を咲かせた。

小さな一点が大きな流れを呼び寄せる。

その後も、リョウタ君がレフト前に痛烈な打球を放ち、キャプテンがホームベースを踏み、更に１点の追加点を入れた。

２－０と初回からリードすると。

その後、3回にも2点を追加する。

その差は4点と大きく引き離す。

守備も上々の立ち上がり。安定して打者を捌いていく。

姉のストレートは衰える事なく、テンポ良く打ち取っていく。内角を抉るストレート、外角いっぱいに入ってくるストレート、スローボールを随所に折り込み、バッターを翻弄させる。

２巡目のクリーンナップをピシャリと抑えると、大歓声に包まれベンチへ走る。

誇り高い姉の勇姿に見惚れ、気づけば、5回が終わって、４－０と勝利は目前。

「初戦は何があるか分からんぞ！」

そんな言葉は頭の遥か隅に押いやられていた。

そう、6回表の悲劇が起きるまで。

私達は、思いもよらないところで県大会の洗礼を受けることになる。